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顧客はドレスではなく流行を買っている

[要旨]

ZARAやH&Mなどのファストファッション業界では、週単位で、店頭の衣類の販売状況を生産計画に反映させることで、流行の衣類を低価格で提供し、競争力を高めています。これは、「顧客はドレスではなく流行を買っている」という顧客のベネフィットに対応する活動ですが、それは、計画と実行を高速で循環させることで実現していると言えます。

[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、マーケティング戦略を実践して奏功しなかったときに、実際には実行力に問題があったにもかかわらず、戦略に問題があったと判断されがちなので、事業の競争力を高めるためには、戦略の良し悪しよりも、組織の実行力を高めることに注力することが大切ということについて説明しました。

これを受けて鈴木さんは、事業活動は調査や分析に偏らず、計画と実行のサイクルを高速で回転させることが重要ということについて述べておられます。「計画と実行は相互に依存し循環する関係にあります。『計画→実行』というだけでなく、『実行→計画』でもあるわけです。(中略)調査や分析と計画ばかりに憂き身をやつすのではなく、計画と実行のサイクルを高速で回転させることによって、マーケティングの制度を迅速に向上させていくことができます。

まさにこのことを実践し、アパレル業界の世界2強となったのが、ZARAブランドで知られる、インディデックス(スペイン)と、H&Mブランドで知られるへネス・アンド・マウリッツ(スウェーデン)です。両者は、自ら企画・製造した自社ブランドの衣料品を直営専門店で販売する、製造小売り(SPA=Speciality store of Private label Apparel)です。(中略)

レビットが指摘していたように、顧客はドレスではなく流行を買っています。彼らは、何か月も前に予測した、当たり外れのある流行に基づいたドレスを計画的に生産してから販売するのではなく、いま、まさにはやっている流行をすぐにとりいれたドレスを、週単位で迅速に生産して売り切る『ファストファッション』を展開し、世界市場を席捲しています。計画と実行は分離するのではなく、ひとつの連続した学習の過程として、『計画→実行→計画→実行→………』ととらえなくてはなりません」(160ページ)

引用した事例のファストファッションは、適切なマーケティングを実践するための活動というよりは、流行の変遷が激しいアパレル業界の特性への対応という性格が強いと思います。とはいえ、実行と計画の循環速度を高めることは、競争力を高めることに違いはありません。事例の2社に限らず、福島県いわき市に本社があるハニーズなどの日本のアパレル会社でも、週単位で店頭の流行を製造に反映させることによって、流行の衣類を低価格で製造できるようになったことから、競争力を高めています。

したがって、アパレル会社が「流行」を販売できるようになったのは、週単位で実行と計画を回転させるサプライチェーンを実現させているからと言えると私は考えています。こう考えると、事業活動は、事業活動そのものよりも、仕組みづくりや管理体制に競争力の比重が高まっているということが理解できると思います。

2023/3/14 No.2281

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