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いつもと違う選択をしてみたら・・

いつもの美容室で予約をしようと思ったら、空きがなく、違う美容院を探す。

アプリで探して、とりあえず空いてる美容院を予約。
今まで何度もとおった大通りにある美容院らしいが、お店の記憶がない。

携帯のGPSを頼りにウロウロしながら、たどり着く。
「あれ?こんなところにあったの今まで気づかなかった」

おそる、おそる扉を開けると現れたのは、ロックンロールな中年男性。
金髪、タトゥーにロックなTシャツに大きなメガネ!!!

やっぱりいつもの美容院に行けばよかったかしら、とちょっと後悔する。
久しぶりに美容院「あるある」会話。
「お仕事帰りですか?」「職場近いんですか?」

「ええ、仕事帰りです」
「近くの保育園です」となんてことない答えで返し。

「へえ、保育士さんなんですね〜」と言われる。
本当は保育園の栄養士の私だけれど、よく起こる会話なのでもはや訂正する気がない時は大抵、私は保育士になりすます。(わざわざ訂正するのも申し訳ないから)

そういえば、昔、タモリさんもタクシーの中でいろんな職業に(確かガン専門の病理医とかになりすました話)を聞いたことがある。
いやなりすませるって才能だよな〜。
私が他になりすませる職業があるとしたら?とかよく分からない妄想をしていたら。

「保育士さんか〜こども可愛いですよね」
「かわいいですよね」(確かにみんなかわいい)

あれ?このロックンロールな男性って、もしや子ども好き?
(子ども好きと動物好きはみんな良い人という私の持論)

そこから、興味を持って彼の話をよくよく聞いてみると・・。

毎年カンボジアまで子どもたちのために髪を切るボランディアで行っているそうだ。

彼の話に一気に吸い込まれる。

「毎年通い続けてもう10年以上なるんですよね」

彼の話は続く。

「俺が毎年行ってるものだから、美容師の若い子にも『店長(ロックな彼は店長だった)ぼくもカンボジア連れて行ってくださいよ』ってよく言われるんすけどね。
俺は思い出作りのために行ってるわけじゃないのよ。
そして俺が行くところはスラム街とか村の僻地で危険なとこだから連れていけないんだよね」


彼は現地で本気の「活動」をされている。


「きっかけは何だったんですか?」


「きっかけは、『地雷を踏んだらサヨウナラ』って映画知ってます?
あれを観てアンコールワットにどうしても行ってみたくなったのがきっかけで、アンコールワットに初めて行ったんです。
そこでカンボジアの実情を知って、俺にもできることないかな?って思ってはじめたのが現地で髪を切ることだったんですよね」

大きな鏡もまともにない現地の村の美容院。
彼はトタン屋根が連なる村の広場で髪を切ることもあるそうだ。


スラム街で空き缶を集めて生活している子、親の代わりに牛の世話をする子、いろんな子どもたちの話を聞いた。

アンコールワット周辺は治安はいいものの
(アンコールワットを観光に行く分には全然問題ないそうです)
スラム街や山の方に入ると本当に危険な地域が今も続いているそうだ。


ちなみに『地雷を踏んだらサヨウナラ』は70年代の内戦が激化するカンボジアで戦場カメランとして現地に足を踏み入れた一ノ瀬泰造さんという実在の方をモデルにした映画だ。

話がどんどん盛り上がり、美容師さんが携帯を持ち出してきて、たくさんの写真を見せて頂いた。


髪を切ってもらうために、彼の前に列を作って並ぶ子どもたちの姿。
裸で髪を切ってもらっている少年。
たくさんの笑顔の子どもたちの写真。

帰りしな美容師さんを乗せたバンを、笑顔で追いかけて走る子どもたちの姿。

美容師さんが言った
「『また来るからな』って別れて、あの子どもたちの笑顔が忘れられないんですよね。」

金髪の大きなメガネの奥の瞳はとっても優しかった。

私は、一本の映画が生き方を変えてしまうことってあるんだな〜と思った。

会計が終わった後も、しばらくの間写真を見せてもらいながら、話していた。

「ぜひいつかアンコールワットも行ってみてくださいね」
実際のアンコールワットはとても荘厳で神秘的な場所だそうだ。

その時、アンコールワットが彼の熱を通してなぜかすごく近くに感じられた。写真で見た子どもの笑顔が頭の中にたくさん写る。

美容室を出たあと
短くなった髪とともに、私の気持ちはさっぱりしていた。

いつもと違う選択はいつもと違う風を運んでくれる。

いつかアンコールワットに、現地の子どもたちに、会いに行ってみたくなった。

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