【第16回】無色透明からカラーになった瞬間
あと30ページ分を印刷に入れて終了というその日の夜、事件は起こった。
作業していたMacの画面が突然ブラックアウト...。
いまでは考えられないかもしれないが、20年前のMacは突然フリーズする「爆弾マーク」というものが出ていた。
グラフィカルに「爆弾」が出て、かわいいね〜なんって言ってる場合じゃない。
30ページ分のデータが一気に吹き飛んでしまったのだ。校了まであと5時間くらい、その時、俺は...。
そばのソファにふて寝してしまった。
もう寝るしかなかった。知り合いにいろいろ聞いて復旧作業もやってみたが、どうにもならなかった。怒りを鎮めるために、横になった。
30分くらいふて寝してからむくりと起きて、30ページ分のプリントアウトしたものをそっくりそのまま1からやり直してやった。そう、やってやった!(泣)
あの時の絶望感はもう思い出したくない思い出だ。
そんなこんなで、無事に印刷に出して、俺たちが生み出した「ROOM+ 」はついに完成。まっさらな状態から、企画、編集、撮影、デザインを生み出したものが世の中に出る瞬間だった。
これが表紙。実際にモデルくんに飛んでもらって撮っている。(合成ではない)。
その当時、ミッドセンチュリーブームの最中。様々なデザイナーの椅子が売れている時代だった。特集ももちろん椅子コレクション。ひたすら、椅子の写真を載せた特集だった。編集長コタローの手腕で、ボニーピンクやクラムボンなどのミュージシャンなどにも出てもらった。
表紙も名作の椅子に保険もかけずに、モデルくんに飛んでもらうという荒業をやっていた。
バカ売れまではしないものの、ジワジワと業界内では知られるようになっていった。
この本を制作したのをきっかけに、それまでカメラマンのマッツ、ライターの桑ちゃん、俺という3人のコアメンバーから、編集のコタロー、なるちゃんなどが正式に加わり、代々木のボロアパートが手狭になってきたので、「富ヶ谷」という代々木公園の近くに引っ越すことになった。
クリエイティブ集団「steam」の誕生だった。
俺たちが「なにものか」を世の中に表明したのである。
いままで無色透明な自分が、やっと社会という場所に立ったという思いだった。
(つづく)