第21話 出発前夜の夢
12月14日 コウジは28歳の誕生日を迎えた。
トレーダーホテルのバーでツカサ、リョータ、マサル、タケルらと一緒に飲んで祝っていた。
リョータ:コウジ、誕生日おめでとう! そしてドーハの奇跡を信じて乾杯!!
一気にテキーラのショットを飲み干した。
ほろ酔い気分ではあったが、
コウジは目前に迫っていたエリーとの再会が楽しみと、不安の両方が入り混じっていた。
マサル:コウジ、今の気分はどうだ? いよいよだけど
コウジ:そうだなぁ、なんとか付き合いたいなぁ
タケル:そうだよな。だってわざわざお金かけてドーハまで行くんだもんな。今回、どれぐらいお金かかったんだっけ?
コウジ:飛行機代が18万円、ホテルが2泊3日で4万円、あと現地の食事とかも入れると合計で25万円ぐらいかな。
タケル:おぉ、結構したな。でも付き合えたら安いもんでしょ?
コウジ:そりゃそうだけどさ、まだ付き合えるかわからないよ(笑)
マサル:いや、俺たちはいけると信じてるぞ!
リョータ:俺も
タケル:俺もー!
ツカサ:応援してるよ(笑)
コウジは、1年前のエリーとの出会いを思い返しながら、言った。
コウジ:明々後日のドーハで、もしダメでも後悔はないさ。
ツカサ:まあ、お前がそう言うなら、いいんじゃないか。こちら側からしたらコウジはこんな大恋愛繰り広げていること自体、羨ましいさ。
コウジにとって心配ばかりではあったが、
成功と失敗どちらにしても受け入れようと心の整理をしていた。
リョータは左肘をつきテーブルの一点を見て、考えながら言った。
リョータ:うーん。マサル先生、コウジくんのドーハの速報をテキスト速報ではなくもう少しユーモアに、どこよりも早く知りたくないかい?
マサル:そりゃ、知りたいねぇ。でもさこのコウジの話はヤンゴンの日本人だいぶ知ってない?
タケル:あ、だと思う。だってうちの所長がこの話知ってたもん。
コウジ:え?
(一同 爆笑)
コウジの話は、最初は少人数しか知らなかったが、
ネタのないヤンゴンであったのか、日々娯楽やリアリティな話を求める人々にとってコウジのハプニングストーリーは格好のネタだった。
それでもコウジは、そんなことお構いなしだった。
すると、タケルは指をパチンと鳴らして、何か閃いた。
タケル:あっ、そうだ! こういうのどうだろう? ドーハはあの有名なドーハの悲劇があった場所じゃん? ラモスがその試合でがっくりとしたポーズしてたけど覚えてない?
マサル:あぁ、あの座り込んで左手で頭を抱えてたポーズ?
タケル:そうそう。 コウジはがっつり振られたら、このラモスのポーズを撮った写真をfacebookに挙げること。
もし付き合えたら、二人のラブラブなツーショットをfacebookに挙げること。
これでいかがでしょう?
マサル:それは妙案ですね。付き合えたらそれぐらいサービスしてくれてもいいし、フラれた後はショックのあまり、メッセージを送りたくもないでしょうしね。
タケル:そうです。コウジくんの精神的負担を考えたら、これくらいの負荷程度でおさめてあげないと・・・エリーの話を知らない人は写真だけみたら、単にラモスの真似しているだけの観光写真。
でも、エリーとの話を知っている人からしたら、それで察するでしょう。
僕らもコウジくんの写真を見てからメッセージを送るか、留めるか察するべきです。
なにより僕らはコウジくんの精神的負担を最小限に食い止める為に、日夜戦っているわけですから、ここが落とし所かと考えます。
タケルのニヤリとした表情に、笑いを必死に堪え下唇を思いっきりかみながらリョータは言った。
リョータ:タケルさん、見事なアイデア(拍手) これいただちゃいましょう!
コウジ:まあ、それぐらいなら僕はいいけど・・・
コウジとは対照的に、3人は異様な盛り上がりをみせていた。
12月15日 移転初日
朝から搬入作業で大忙しだった。
「まずは電話とネットをつなげる作業だけやっちゃおう。他はそのあとでいいから」
水木の指示にすぐさま動くコウジ
時間は限られているので、ペースをあげて動いた。
コウジがオフィスを出る時間は午後1時過ぎ
抱えていた仕事もあったが、支店長に引き継ぎをものの数分で行うしかなかった。
時計をみると1時を回っていた。
「支店長、すみません。これから3日ほど不在にさせていただきます!」
深々と頭を下げて、荷物をまとめてオフィスをでようとするコウジを呼び止めて、水木は言った。
「楽しんでこいよ」
そう言って、水木は搬入作業に戻って行った。
コウジは、待っていた車にのり、急いで空港に向かった。
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