
「ひとりで自由に」もいいけど「ふたりで安全に」も楽しい
今年の3月より本格的に大阪関西万博に出展する「Road to 2050」に携わることになった「三和機電工業株式会社 SKC TRISTAR」の介護福祉士、荒田圭輔です。
今回出展する「新しい車いす」のことを介護福祉士という視点と僕の想いとともに書いていきたい。
僕がこの車いすのことを聞かされたのは5年前、ちょうど今の会社に出戻りするにあたって上司と食事をしながら話していた時だ。
「こんなん考えてるねん」と設計思想を語ったのは誰あろう弊社の社長である、その時に聞かされたのは「新しい車いすを作りたい」という強い想いとその斬新な設計だ。
「坂道でも座面が水平を保てる車いす」
介護に携わる者であれば誰でも一度は考えそうな車いすの機能で、僕自身も二十余年にわたる介護福祉士としての仕事の中で考えたことは何度かあった。
だがそれは「考える」というより、「空想」や「夢想」に近いものでそこに現実味など微塵もなかった。
しかし、そんな車いすの設計図が今、目の前にある。
「空想」や「夢想」だったものが一気に「現実にあるもの」として見えてきた瞬間、僕の口から出た言葉は「面白そうじゃないですか!」だった。
話は変わるが、これを読まれている皆さんは「車いすの危険性」というものをどれほどご存知だろうか。
介護福祉士やヘルパーであれば研修や専門学校などで嫌というほど覚えるもので、専門職にとっては「車いすの危険性を知る」ということは「呼吸をする」というレベルで当然のように身についてる。
翻って、専門職ではない人たち(ここでは便宜的に「一般の人」と呼ぶことにする)は車いすの危険性と言われてどれほど思いつくだろうか。
日常の中で一般の人が車いすを押しているのを見るとハラハラする場面が非常に多い、その代表的なものが「坂を前向きに下る」という場面だ。
この場面がなぜ危険かというと「乗っている人の身体が前方に斜めになる」からだ。
考えてもみて欲しい、自分の乗っている車いすが前方に傾き坂を下っていくが自分にはベルトが付いていない、そして自分の命を預けている介助者は「車いすと自分の体重」を支えてはいるが非常に重そうにブレーキを掛けつつ押している。
「ここでもし介助者の手が重さに耐えきれず離れてしまったら?」
その先は言わずもがなだろう。
こういった危険な場面を解消するために介護福祉士やヘルパーは「車いすで坂道を下るときは後ろ向きに下りる」を徹底的に教えられる。
だが、これもまた車いすに乗っている方からすれば「見えない行き先に後ろ向きに傾いて下りていく」という非常に怖い思いをしているし、実際僕も専門学校での車いすの実習でこのように下りた時非常に怖かったのを覚えている。
前向きに下りたら危険だし、後ろ向きに下りても怖い・・・
じゃあどうすればいいんだよ!?
その問に対する1つの答えは「搭乗者の安全を最優先に考えて後ろ向きにゆっくり下りること」であり、それが今の介護の世界でも最適解とされているし今後もメインストリーム足りえるだろう。
しかし、僕たちの車いすはこの場面にもう1つ新しい解を提案できる。
三和機電工業株式会社の描いた設計図を基に、「モノづくりの町・東大阪」のニシト発條様の素晴らしいバネ技術と株式会社三共製作所様の精緻な金属加工技術から生み出さされるこの車いすのコアとなる機構は既に述べた通り「介助者の簡単な操作により坂道でも座面を水平に保つことができる」というもの、これは実験段階でありながらも電子制御により行われていたこの機能をアナログの技術で初めて実用レベルにしたという、はっきり言って「めっちゃスゴイ車いす」、いや最近の言葉を使うなら「新しいモビリティの提案」と言ってしまってもいいだろう。
この車いすでは搭乗者が恐怖を感じる前向きに下りる危険性を解消し、また斜面を横断するような場面で車体が傾くというような場面でも同じく簡単な操作で座面を水平に保つことで搭乗者を危険から守ることが可能だ。
今、世の中にある「新しい車いす」や「新しいモビリティ」と呼ばれているものは「1人で自由にどこへでも」というコンセプトのものが多いように感じる。
確かに「誰にも迷惑をかけずに自分一人で移動できる手段」というのは老若男女問わず広く受け入れられるコンセプトだろうし、「自立した生活」という観点で見ればそういった面でも素晴らしいと思う。
ただ、街の人通りを注意深く見ると「高齢者の乗った車いすを高齢者が押している」という場面が増えてきているのを感じるはずだ。
そういった人たちは今後確実に増えていく、そんな社会の中で「ふたりで安全に移動できる」という手段を提案することは社会的にも意義深いことだし、そんなに大仰に構えなくても「歳を重ねても、歩くことが難しくなっても、これがあれば好きな人と2人で行ける」そんな風に考えればこの車いすで幸せな人たちを少しでも増やすことができればそれに勝る喜びは無い。
大阪関西万博に向けて「Road to 2050」という大きなプロジェクトに関わる一人の介護福祉士として、この新しい車いすに次の世紀につながる未来を感じずにはいられない。
#車椅子
#車いす
#浮く車いす
#空飛ぶ車いす
#関西万博
#万博2025
#大阪万博
#未来
#介護
#介助
#福祉用具
#バリアフリー
#ものづくり
#Roadto2050