イースター・パレード/ザ・ブルー・ナイル Easter Parade / The Blue Nile
F原さんと復縁した。
復縁ついでに(!)一緒に住もうか?と聞いてみた。
「私はずっと一緒に住みたかった」
思わぬ答えが返って来た。
よし、善は急げだ。
こういうのはモタモタしてると邪魔が入るってーもんだ。
正々堂々と一緒に住みたかったのでF原さんのアパートに転がり込むのは嫌だった。
駅から20分もかかるアパートは引き払うぞ。
早速アパートを探そう。
F原さんも一緒に探した。
どこの不動産屋に行っても「一緒に住む」と言った途端に怪訝そうな顔つきになり、いろんな理由を付けては断られた。
まだ当時は「同棲」というと日陰を歩む「訳アリ」の2人が世間の目を避けてコソコソと暮らすイメージが残っていたのだ。
なかなか障壁は高いけど,、壁は高ければ高いほど登った時気持ちいいもんね。
ある不動産屋で、「理解がある大家さんのアパートがある」と言う。
大家さんに会いに行くことになった。
その大家さんは40代ぐらいの品のある女性で、若い頃オランダに住んでいたことがあると言った。
とても美味しいアップルティーと高そうなクッキーを出してくれて、どうぞ食べながら話をしましょうと言った。
「向こうでは結婚する前に一緒に住んでみて、うまく行くようなら結婚するのよ。私はあなたたちのようにキチンと一緒に住みたいと言ってくれるカップルの味方をしたいの。ただ一つだけ問題があって、私の母親が同棲にまだ理解が足りないの。このアパートは母親の持ち物だから私の一存では決められない。頑張って交渉してみるけどダメだったらごめんなさいね。」
数日後、
「やっぱり許可が降りなかったわ、ごめんなさいね、でも頑張って。」
と村上春樹の小説に出てくる女性のような言い回しで断りの電話をくれた。
結局断られてしまったが、応援してくれる人がいることがわかって悪い気はしなかった。
散々探して隣の駅の不動産屋でなんとか一緒に住めるアパートが見つかって住むことができた。
DK4.5畳にリビング6畳、トイレはあるけど風呂は無かった。
でもいいや、2人で銭湯に行くから。
銭湯では番台の女将さんに「もう奥さん出てますよ」なんて言われた。
なんとなく照れ臭かった。
F原さんはとにかく風呂から出るのが早かったのだ。
いつもF原さんが待たされた。
洗い髪が芯まで冷えた(笑)
引越し祝いにバイト先の焼肉店と喫茶店のスタッフが集まってクリスマス会を催してくれることになった。
バイトを早上がりしたM崎くんは部屋に入るやいなや俺のレコード棚を物色し始めた。
「俺君さん結構マメにレコード買ってますね、12インチもちゃんと買ってるもん」
「コレ聴いたことありますか?すごく良いですよ」と持参して来たレコードをかけてくれた。
A Walk Across the Rooftops / The Blue Nile
クリスマスにピッタリ合う、静謐で敬虔で清らかな音だった。
俺とF原さんのこれからの生活を祝福してくれているようだった。
その後みんなが合流して賑やかな会になったが、みんなでワイワイ騒いだので下の階の女性が文句を言いに来てひどく怒られた。