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タイムマシンにお願い/サディスティック・ミカ・バンド Time Machine Ni Onegai / Sadistic Mika Band

妻が短大時代の友人たちと組んでいたバンドを再結成してサークル主催のコンサートに出演するという事態になった。
東京に何度か出向き、練習に励んで、無事コンサートを成功させていた。

これを羨ましく見ていた俺は一念発起し、30年間封印していたバンド活動をまた始めたいと思うようになった。
なったのはいいがさて、どうしよう、どこから始めよう。
メンバーはどうしようか。
そこで俺はずっと思い描いていたことを思い出した。

「そうだ、家族でやればいいんだ」

しかし、自分が得意な(といっても下手)ギターを弾くのでは面白くない。
ここは今までやったことのない楽器に挑戦して、初心者ばかりのバンドにしてやろうと決めた。
バンドのパートはすぐに決まった。
まず、元々ラッパーだったが最近ギターを弾きはじめた二男がギター。学生時代カラオケ三昧だった長女がボーカル。胎教に久保田利伸を聴き、ヒップホップからプリンスへと至るファンキーさを備えた長男がベース。妻が初めて手にするギターと子供の頃にピアノを習っていたからキーボード。そして俺がこれまた初めてトライするドラムだ。

これは面白いことになりそうだ。
そんな予感がした。
でもみんな初心者なのでどんな曲をやるか考えないと。
長女は英語が苦手なので日本語の曲で、コードが3~4個の簡単な曲。
えーっと何があるかな。
そうだ。
「タイムマシンにお願い」だ。
最初のイントロにCが一度出てくるがあとはA、D、Eだけだ。
よしこの曲で行こう。
みんなに話すと「え?あ、う、うん」みたいな反応だったけどまあいいや。
俺がやるといったらやるよ。

で、早速個人練習に入った。
スティックは買ったが、ドラムは練習できない。
ホームセンターでゴムのパッドを買ってきて木の板に張り付けて叩く練習を開始したが反発する感じがあまり良くない。
「よし、こうなったら電子ドラムを買っちゃえ。ヤフオクなら安いのあるだろ」ということで8000円で落札した。
足が一本足りないのでジャンク扱いだったのだが、こんなものは何とでもなる。音はちゃんと出るしね。
スチール家具のネットを買ってきて足りない足の部分を支えてはい、出来上がり。
何の問題もありません。
これで練習できる。
ただでさえ狭いリビングルームにドラムを置いたので家族からは「邪魔すぎるにも程がある」「いいかげんにしろ」と総スカンを食ったがまあいいや。
各自練習に励むのであった。
そして何か月かしてスタジオを借りて全員で合わせてみることに。

おおおおおおおお。
いいじゃん。
みんな頑張って練習してきたんだな。
目頭が熱くなった。

他の曲もやってみようということでその場で椎名林檎のギブスも演ってみたりした。
いいじゃんいじゃん急ごしらえにしてはいいじゃん。

音合わせが終わって「あー楽しかった」と片付けをして楽器を車に積んだところで長男がみんなに向かって言い放った。
「俺は今回で脱退します」

ガーーーーーーーーン!

あっという間に家族のバンドは解散した。

でもいいんだ。
一回だけでもちゃんと付き合ってくれたから。
俺の念願だったんだ。
家族でバンドやるの。
夢だったんだ。
嬉しかったよ、俺は。
ありがとうな。

ちょっとだけ泣いた。

 


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