思い詰めてしまった夜の果て
何も考えずに、ぐっすり眠ることが最高のソリューションだと思う。
けれど、それが叶わぬ夜がある。
敢えて宣言することでもないが、繊細なほうだと思う。「ほう」も嘘か。
そうだ、無理をするのはやめにしよう。
何を今更。
私は、繊細だ。
繊細だから、音楽を聴く。音楽に全身を預けて、助けてもらう。
永遠の時の中に閉じ込められたような、長く暗い夜に、寄り添い、支えてくれる音楽があるって、すごく心強い。
女王蜂の「夜天」が、響いている。
冒頭は、ファルセットから。
ヴォーカルの優しさが、気づかせる。
この曲が、泥のような絶望の淵から産まれたということを。
『思い詰めてしまった夜の果てわたしたちは出会い』
『持ち寄る孤独は灯火のように胸に宿る』
同じ夜空の下にいる、顔も知らぬ誰かを思う。
不確かな運命共同体の私たちは、孤独を抱えて燃やして、わずかな明かりを頼りに歩く。
オクターヴが一つ下がり、歌姫は踊る。
私は安心して、体を、心の全てをすっかり預けて、音楽の海に潜っていく。
『季節たちよりも豊かで、時計の針より確かな』
このフレーズが好きだ。
『かけがえのない何もかも総て、そう、いつだって試されてる』
オーストリアのフランクルという医師の言葉を思い出す。
私たちが人生に何を期待するかではなく、人生が私たちに何を期待するか。
今この瞬間、人生は私に何を期待しているのか。何を問うているのか。
私は、人生からの問いに、誠実に答えられているのだろうか。
酒は飲めない。
だから、せめてもの抵抗に、ラム酒の入ったチョコレートを齧る。
ふわりとアルコ―ルが揮発して、夜がまた一重、濃く暗くなっていく。
掌いっぱいの孤独と共に、私の魂は、あてどなく彷徨う。
一人は苦手じゃない。
それどころか、私にとって、一人の時間は絶対に必要な、最後の砦だ。
でも。
でも、今夜は。
今夜だけは、この深い闇に体まるごと溶けて、海底を泳ぎ、仲間を探す魚になってしまうことを、許してほしい。
たまには、こんな夜、ありませんか?
自分一人ではどうにもできない。
だから、音楽に助けてもらう。
夜天。
暗い夜空の下で、見ず知らずの誰かと共に、持ち寄った孤独の封を切る。
悲しい後悔と、残忍な現実。
持ち寄ったものは、まるで生の内臓のようにぬらぬらと光り、異臭を放っていたはずなのに。
それなのに。
この歌声が、全てを、夜空を彩る金や銀の星に変える。
私たちの孤独が、いつしか星になって、進むべき道を指していたことに気付く。
『喜びはいつも見出すもの』
アヴちゃんは知っている。
顔を上げれば、曇天の向こうで、星たちはいつも変わらず、夜空に輝いていることを。
優しいな。
思い詰めてしまった夜の果てに、聴いてみてください。
アヴちゃん。
大丈夫かな。
私には女王蜂が必要で、だから夜空の下で、いつまでも待っています。
いつもありがとう。