【ショートショート】 背徳のミルフィーユ
私が小学生の頃は近所のスーパに出かけるとミルフィーユを食べたいって思っていた。
けど私の家計が貧乏なことは子供ながらになんとなく感じていたし、悪いことだと思っていた。
私が高校を卒業して働き始めて何年か経過したときに、私は新型のウイルスに感染した。
実家で暮らしていた私は母親にミルフィーユを買ってきてほしいとおねだりをしてしまった。
母親は熱を出して苦しんでいる私の願いを当然のように叶えてくれた。
子供の頃はおねだりできなかったけど、今は自分が働き始めてお金の価値もなんとなくわかる。だからこそおねだりした。
きっと400円くらいだと思う。
私は地層のように何層も重ねられている生地をフォークで口の中へ入れた。
下の上で溶け出すように消えていくミルフィーユは弱った身体に染み込み背徳感を感じさせた。
パティシエが作ったミルフィーユの努力層は一瞬で私の口の中で消えてなくなる。
私は悲劇のヒロインになったつもりで、「死ぬ前に食べれてよかった」と呟くと母が笑ってくれた。
またミルフィーユを食べるため仕事しよ。