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ココロ

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私が学生の頃に書いていた小説を書き直しながら投稿しています。 ちょっと鬱々としていますが、読んでいただけると嬉しいです。 【あらすじ】  ごみ捨て場で小さな赤ちゃんを拾った私のお話
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ココロ ⑥

 いつの間にか眠り込んでしまった私を起こしたのは、先日拾った赤ちゃんでした。おぎゃあおぎゃあと大きな声で泣いています。赤ちゃんの仕事は泣くこと。不意にこの言葉を思い出しました。 
 それと同時に、急に冷静になった頭が私に語りかけてきます。赤ちゃんを1人ボッチにして仕事をするなんてできない。ちょうど転職を考えていた私にとってはこれは大きな問題でした。それに、勿論と言ってもいいですが、私には子供を育て

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ココロ ⑤

ココロ ⑤

 電話が鳴り響いている。しかもこんな早朝に。まだ朝日ものぼりきっていない。だが、その電話は鳴り響いているだけだ。誰も受話器を取ろうとはしていない。
『発信音のあと伝言をどうぞ』
『もしもし……お母さん?ごめんなさい、どうしても電話に出てほしいの。私すごく困っちゃって。お願いします』
 無機質な発信音と流れるように吹き込まれる伝言。それだけが永遠とその家中に響いていた。
 その鳴り響く奥の方、部屋の

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ココロ ④

 私はその赤ちゃんをゆっくりと、ゆっくりと触り、温もりを感じてからしっかりと両手で触り、そのまま抱き上げました。少し風が強くなってきていました。ふんわりと赤ちゃんの柔らかな髪が揺れています。たんぽぽの綿毛を思い出しました。少しだけまつ毛が揺れて、また少ししてから、その赤ちゃんはふわっとまぶたをあげ、吸い込まれるように真っ黒な深い瞳の奥で私を取り出し、そしてニッコリと笑いました。そのままキャラキャラ

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ココロ③

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 高校を卒業したあとは介護系の職場に就職しました。もう長いことある施設のようで、その地域に住んでいる方々はみな知っているような、馴染みのあるような職場でした。母は私が何度も必要ないと言い張る言葉が聞こえないかのように、万札と千円札を何枚か私に手渡しました。握らせた、と言う方が正しいかもしれません。そのおかげもあってか、すんなりと自分が住むところを決め、自然な引っ越しをすることができました。あ

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ココロ②

ココロ②

「どうしても大学には行きたくないのね」
 母は静かな口調で私に問いました。
「うん」
「 働くのね?」
「うん」
「 一人暮らし、するのね?」
「……。うん」
「……。分かったわ」
「……。うん?」
「いいわよ、好きにしなさい。その代わり一人暮らしだけは約束してね」

母と契約を交わしたような気持ちでした。私との関わりを急にシャットアウトされたかのような。母は黙って皿を洗っています。今度は母が

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ココロ ①

ココロ ①

 赤ちゃんを、拾いました。肌が真っ白で、ぷくぷくしていて、淡い寝息のする、赤ちゃんを拾いました。

 その時の私はとにかく疲れていました。身体が重く、常にだるい。ただただ疲れたが口癖になっていました。高校を無事に卒業できた、そこまでは順調だったのです。そこまでは卒なく勉学をこなし、卒なく人間関係もこなせていました。特に問題も無かった、筈です。問題はその後でした。多分、就職してしまったのが間違いだっ

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