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「レッドゾーン」を読んで考えた使命と役割

夏川草介著「レッドゾーン」読了。

以前読んだ「臨床の砦」より後に出版されているが、ストーリーとしては「臨床の砦」より前になる、コロナ初期の話。

「臨床の砦」は冷静沈着な敷島を中心にストーリーが展開されるが、「レッドゾーン」は人間味のある他の登場人物の視点が多く、それゆえ、より強く感情が揺さぶられた。


使命と役割

医療というものは、使命感だけで成立するものではない。
車が安全に走るためにはアクセルだけでなくブレーキが必要であるように、花火を楽しむときには必ず水をたっぷり入れたバケツを用意しておくように。
今もって、コロナ診療にかかわりたいとは微塵も思わない。
けれども、自分がそこにいることで、おそらくこの医療は少しだけ良いものになる。そんな直感があると言えば、傲慢すぎるであろうか。

「レッドゾーン」より

まさに「異常時 (緊急時)」と言える事態の最中、厳しい判断とディスカッションが続く。正解はないけどその時その時の最善はある。
逃げてしまいたくなるくらいの現実を前にした、使命感と役割の自覚。

同じく、子を持つ親として、
久しぶりに連絡があった息子からメールで正義の刃を向けられたところ、
入院中の父親にひとときの別れを告げたところ、
娘に真っ直ぐな目で「助けてあげなくていいの?」と言われたところ
が、泣けて泣けて泣けてきた。

生きるということ

人生というものは断片だけを取り上げて、あれこれ論じることのできないものだ。
山があり、谷があり、幸と不幸が順々に巡ってくる。
山を削り谷を埋めて、真っ直ぐな道を敷き詰めたところで、そこを歩く人生が愉快かと問われれば、怠惰な日進でさえ、否と笑って首を振る。
人が生きるということはそういうことではないだろう。

「レッドゾーン」より

価値観が異なる相手に対して、正面から向き合わずに上手くかわす処世術を身につけてきた。共感力が高く、他人の感情をキャッチしやすく、気に病みやすい自分を自覚しているからこそ、意識的に衝突するシチュエーションを避けてきたとも言える。メンタル不調に陥って日々の生活に影響を与えないための自分を守る術でもあった。

ただ、少なくとも、人におもねず、自分らしい轍を残せる時間の使い方をせよ…と自分の中の熱い小人が叫ぶ。

忘却とワークライフバランス

読了後に率直に思ったのは、実際に発生しており、身近だった出来事だったにもかかわらず、忘れていることも多いなということだ。
正確に言うと、常に脳内にいるわけではない。ふとした時に思い返すが、日常では脳内メモリが他のことで占められている。
そんな自分を情けなくも思う。あんなに大きな出来事だったのに。

私自身のこともきっと同じだ。
誰かの記憶に残っていると思うのは傲慢だろう。

そして、仕事における使命と役割。
今の自分にとっては思わずにはいられない。
登場人物の医療従事者全員の配偶者が、家庭にフルコミットしているからこそ成り立つ話でもあるのではと。(穿った見方だとは思う)

仕事に全勢力を傾ける人もいれば、家庭を任される者もそれはそれで戦場があるはずだ。
そして仕事にも本来優劣はなく、社会における役割があり、それぞれの価値とやりがい、人生を楽しむ権利があるはずだ。
その中で仕事と育児の家庭内バランスを…となるとさらにややこしい話になるだろうなと感じたのも率直な感想の一つではある。

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