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モノローグでモノクロームな世界

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2019年5月の記事一覧

WhiteNOise #08

WhiteNOise #08

僕らはストーリーテラーだ。

シナリオを用意しなきゃ。

castingはどうしようか。

音響は?

照明は?

さぁ。舞台の幕があける。

さぁ。演じよう。

精一杯、嘘の世界で与えられた役割を。

モノローグでモノクロームな世界

モノローグでモノクロームな世界

第三部 第三章
四、
 サカイは国で非ず。

一体、何が起こっているのですかと僕はとうとう尋ねることはできなかった。緊迫した表情を隠そうともしないクジョウは、壁にかけてあった防寒具の一つを僕に投げてよこすと、流雨にあれこれ指示を出した。
僕は彼に言われるまま防寒具を身につけると、流雨の小さな背を追って、今し方上がってきた階段を駆け下り、階段脇の床の一角を勢いよく下方向へと押し込んだ。
 「うわ。」

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第三部 第三章
三、
 ブラックアウト。
都市部の町でまことしやかに囁かれてきたその単語を僕も実は何度か耳にした事はあった。僕らが十一歳になると受けることが義務付けられている、衛生プログラム。その衛生プログラムで一定の値をクリアできない状態が何度も続いた場合、ナインヘルツ及び国は対象者に対し、移住を強制する事ができる。
 この世界にある九つの国は、先の大戦を受け、国々の著しい優劣が起きないようにと

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第三部 第三章
二、
 リトリはこんな世界で新しい物を創れる存在なの。
どこか夢見がちにそう話していた流雨の熱を帯びた声が、耳の奥にこびりついて離れない。
流雨は、いつかリトリに会うのが、夢なのだと僕に教えてくれた。
こんな世界で夢を持てるだけ、幸せだね。
そう寂しそうにマドカのベッドに腰かけながら呟いた流雨の姿に、僕はどこかマドカの面影を探していた。

 流雨と一緒に一階まで上がると、医師が昨夜

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第三部 第三章
一、
 「着いてきて。」
部屋の何処からともなく聞こえてきた声に、声の主を探すと、彼女は部屋の扉に手をかけ僕を真っ直ぐに見つめていた。
腰まで届く白く長い髪と同じに真っ直ぐ見つめる視線。闇市の門で合言葉を言い合った少女は、僕が首を縦に動かしたのを見ると、その長い髪の毛を翻しながら扉の奥へと消えていく。
慌ててぎしぎし音をたてるソファから腰をあげ、少女の後を追う。
 診療所兼応接間の

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第三部 第二章

三、
 「死の谷を知っているか?」
医師の言葉に僕は首を縦に振った。
無論、忘れるわけがない。
そこは、僕の両親を奪った土地の名前なのだから。

「・・・・・・死の谷がどうしたのですか?」
「マドカはそこに行ったんだ。確証はないが、おそらくそこであいつは強い放射線を浴び、死の華を発症した。」
「死の谷へ、マドカが?それに、死の華は原因が解明されていないって。」
「あぁ、だからこれ

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第三部 第二章
二、
 「サカイには未だに昔の物に誇りを持ち、その誇りを棄てられない者も多くいるんだ。まぁ、かくいう私もその一人なんだがな。これは君に渡すのが妥当だろう。」

医師に連れられやってきたその場所は、サカイの闇市の端に立つ小さな診療所だった。白いタイルが眩しい床の上には、質素な診察用のベッドと備え付けの棚が並んでいる。棚の中には、何に使うのか分からない薬瓶が所狭しと置かれていた。
トリ

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