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モノローグでモノクロームな世界

第三部 第三章
二、
 リトリはこんな世界で新しい物を創れる存在なの。
どこか夢見がちにそう話していた流雨の熱を帯びた声が、耳の奥にこびりついて離れない。
流雨は、いつかリトリに会うのが、夢なのだと僕に教えてくれた。
こんな世界で夢を持てるだけ、幸せだね。
そう寂しそうにマドカのベッドに腰かけながら呟いた流雨の姿に、僕はどこかマドカの面影を探していた。

 流雨と一緒に一階まで上がると、医師が昨夜、口にした通り、窓の外は一面、真っ白に塗り潰されたかのように、雪景色へと変わっていた。
未だ激しく降り続ける雪に、辺り一帯の音という音が吸い込まれ、静寂が支配している。その光景もこの静寂も、二つの壁に守られている十月国内では、決して見られない光景だった。
 窓に暴力的なまでに吹き付ける雪粒に、思わず身震いをする。圧倒的なその力を前に僕らは何て無力なのだろうか。

「君は初めてだろう。雪を見るのは。」
朝食を手際よく用意しながら尋ねてきた医師に、僕は実際に目で見るのは、初めてだと答えた。木の寄せ集めで作られたテーブルは、でこぼことした凹凸があり、形も不格好だが、十月国内に溢れている直線と直線で構成されたテーブルよりもどこか温かみを感じる。そのテーブルの上には、三食とも錠剤や栄養補助剤のドリンクが基本的な食事として認識している僕の目には、何とも見慣れない光景が広がっていた。
「あの・・・・・・これは。」
「あぁ、君たち都市部の人間は、見慣れないだろう。これが、元々の人間の食事だよ。全て壁の外の物が原料だが、大丈夫だ。」
そう医師に言われ、恐る恐る目の前に置かれた、丸く柔らかい、けれど手にもつとどっしりとした重みを持つ物体に手を伸ばす。
医師も流雨も、それをとても美味しそうに頬張るのを見て、僕は意を決し、ひとかけら口の中へと放り込んだ。
途端に口の中へと広がる仄かに甘い味と、鼻に抜ける香ばしい香り。
気が付けば、僕は夢中になり、食べ続けた。
「美味しい・・・・・・。」
「そりゃあ、良かった。それは、パンという物だ。まぁ、栄養に関して言えば、確かにトリプルの栄養剤の方が優れている面もある。だが、私は、どうにもあの無機質な感触が好きになれなくてね。あんな物を毎日、食べていたら、自分も無機質になっていくような気がしてね。」
「サカイの人たちは、いつもこんな食事をとっているのですか?」
「あぁ。我々の所には、トリプルは調達されないしな。自分達で食事の管理も体調の管理もしなきゃならない。
ここは、どこの国にも属さない場所だしな。」
「・・・・・・壁の中と外でこんなに、生活が違うとは知りませんでした。」
「マドカも初めてここに来た時、そんな事を言っていたな。」
「・・・・・・マドカはここで生まれたんではないんですか?」
「単にサカイの出身と言っても、このサカイで生まれ育つ者と、流れ着いてサカイに暮らす者がいるんだ。マドカは後者だ。」
 それから、医師はマドカの事について、色々と僕に教えてくれた。
医師の話によると、彼女は恐らく十月国の出身であり、サカイに来てからは、壁の外の者をコレクションしては、様々な地域のサカイで売り捌きながら暮らしていた。
「ミハラ君、君はブラックアウト対象になった者の行く末を知っているか?」
医師の言葉に僕は少し考えてから、横に首を振った。

 

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