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ゴールの先にみえるもの

「ゴール」

競技スポーツをやっていたら、きっと誰もが意識することがあるものだ。

勝つこと。自己ベストを出すこと。金メダルを獲ること。新記録をつくること。ノーミスで演技を終えること。シュートを決めること。感動を与えること。楽しむこと。楽しませること。

人によって、時によって、そのゴールはさまざまだ。

何を目指してもいいし、何が目的だっていい。

なんなら、ゴールなんてなくてもいいのかもしれない。

スポーツをやるのに、目的なんて、理由なんて、ない。

それでいい、それがいい。

...

そう思っていた。

ゴールはいつだってまちまち、のはずだった。

あるスポーツに出会うまで。

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出会い

大学1年生、18 歳。

それは突然やってきた。

中高と部活が一緒で、お世話になった先輩から、おすすめのサークルがあると紹介された。

進む大学はちがったけれど、私の大学サークルに、たくさん友人がいるから、会ってみてほしいという。

大学がちがうのにおすすめできるなんて、不思議なもんだと思った。

「ライフセービングクラブ」

軽い気持ちで行ってみたそのサークルが、私の人生を変えた、と言ったら大袈裟だろうか。

少なくとも、その後4年間の大学生活を、そして今の私の価値観や人となりを変えたことに違いはないから、嘘ではないはずだ。

「ライフセービング」はとんでもなく深い世界だったのである。

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ライフセービング

「ライフセーバー」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう。

海やプールにいる監視台の上の人、笛を吹いてくる人、赤と黄色の服の人、事故が起きたら助ける人?

どれも正解で、どれも不正解だ。

先に例として挙げたのは、監視・救助に関わる活動のほんの一部の要素で、実際のライフセーバーの活動は、非常に多岐に渡る。

ライフセービングは、水辺の事故をなくすこと誰もが安全かつ快適に水辺を楽しめるようにすることを目指して、さまざまな活動に力を入れる。

夏のビーチでの監視活動はもちろん、ビーチの清掃もするし、学校に出向いてウォーターセーフティーを教えることもある。障害がある人やお年寄りがもっと自由に、安全に海を楽しめる「ユニバーサルビーチ」を目指すこともライフセービング活動の一環だ。私の所属していたライフセービングクラブでは、自治体と連携して、海水浴客の集客・広報活動まで力を入れていた。

そして、忘れてはならないのが、今回の話の主役である「スポーツ」としてのライフセービングだ。

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「スポーツ」としてのライフセービング

「ライフセービング」というスポーツが存在することをどれくらいの方がご存知だろうか。

そのルールや、競技内容を知ってる方はどれくらいいるだろう。

その数はおそらくあまり多くない。

私自身、大学一年生ではじめてライフセービングという競技を知り、こんな世界があったのかとすごく驚いた。

詳しい競技のルールや種目を全て説明することはここではしないけれど、その魅力を一部、紹介させてほしい。

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ライフセービングの競技は、海やビーチで行われるオーシャン競技と、プールで行うプール競技の2つに大別される。

さらにオーシャン競技は、ビーチ(砂浜)で行うものと、サーフといって海に入ることを伴う競技に分かれる。
(下の図のようなかんじ)

おそらく一番有名なのは、ビーチ競技のひとつ、「ビーチフラッグス」だろう。

後ろ向きかつ俯せになった状態から、素早く立ち上がり、目にも留まらぬ速さで走り、旗をかっさらう。

選手の数より、フラッグは常に一本少なく、フラッグを掴めなかった選手がレースから敗退。最後の一人になるまで続いていく。

(オーストラリアの大会の様子。めちゃくちゃカッコイイので是非みてほしい)

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サーフ系の種目はたくさんあって、どれを紹介するか選ぶのが難しいけれど、私のお気に入りはなんといっても「オーシャンマン(・オーシャンウーマン)リレー」と呼ばれるもの。

水泳でいうところの「メドレーリレー」、もしくは「トライアスロン」のようなもので、スイム・ボード・スキー・ランの4種目の総合力を競う。(そしてこの種目の順番は、大会毎に抽選で決まるから新鮮で面白い。)

海原を泳ぎ(流れのある海を集団になって泳ぐのはとても骨が折れる)、
砂浜を駆け(砂の上を走ることの難しさよ)、
スキーと呼ばれる大きめのカヤックみたいなものを漕ぎ(めちゃくちゃ重くて大きくて、バランスを取るのも一苦労である)、
レース用のボード(マリブと呼ぶ)で波にも乗る(上手い人は海のうねりまで掴んでしまうから痺れる)わけだ。

これを個人で、全部一人でやるという、
バケモノかみたいな種目もあって(恐ろしくなるような体力と凄まじい努力の上で成し遂げられる、ライフセービング界の花形競技という意)、
それはそれで物凄くカッコイイのだけれど、
それがリレーなんかになったら。

2日間に及ぶ大会のラスト、
他の種目で疲れてるはずの身体に鞭を打ち、
仲間のため、チームのために全力をだす姿なんかを見せられたら。

日焼けた顔はさらに赤くなって汗がほとばしり、
知らないうちに声は枯れ、
目からは涙が溢れ出してきてしまうわけである。

ぜひ、こちらの動画を見てみてほしい。

(バトンパスや襷の代わりに、身体に直接触れるバトンタッチのシーンに注目してほしい。胸が熱くなる。)

プール競技もおもしろい。

40キロのマネキンを運んで泳ぐマネキンキャリーや、
障害物のあるプールを泳ぐもの、
「溺者」と見立てたペアにロープを投げて引っ張る競技など、とてもクリエイティブだ。

そして、きわめつけでユニークなのが、
SERC (Simulated Emergency Response Competition = シミュレーテッド・エマージェンシー・レスポンス競技)
と呼ばれるもの。

海水浴場やプールなどの水辺で実際に起こりうる事故の現場を想定し、4人のライフセーバーがチームを組んで、いかに適切に救助できるかを競うのだ。

海に見立てたプールに、溺れる人、離岸流に流される人、意識がなく水中に沈んでいる人、怪我をした人、熱中症で倒れた人、などさまざまな役割の演者やマネキンが登場する。

90秒という制限時間の中で、4人がいかに上手く役割を分担し、適切に対処したかを、審査員が採点するのだ。

ちなみに、ライフセーバーには直前まで この「現場」の設定は明かされないため、その場での素早く適切な判断力と、臨機応変さが強く求められる。

救助そのものが迅速にできるかというフィジカル面ももちろん影響するが、非常に頭を使うスポーツであり、さらにチームワークが要になる、とてもおもしろい競技である。

(鍛えられたチームが、90秒の中でどれだけの行動を起こせるかには毎回本当に目を見張る。)

これが2016年の大会で1位だったチーム。積極的な声掛けと、浮き具を上手に使ったレスキューにご注目。

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ゴールの先にあるもの

このように、多種多様な(全て数えると、30種目以上あるそうだ)ライフセービングというスポーツだが、おもしろいことに、全ての競技種目が共通した目的・ゴールを見据えている。

勘のいい読者の方であれば、もう想像がつくかもしれない。

「命を救う」ということだ。

          JLA 公式ホームぺージより


大会のポスター。

「勝利の先に、守るべき命がある。」

「ゴールの先に、救うべき命がある。」

大好きすぎるコピー。
コピーライターさん、天才です。
ありがとうございます(合掌)

スキーやボード、スイムのスピードを競うのは、海で事故が起きたとき、1分1秒でも早く、溺者を助けにいけるようにするため。

ビーチフラッグスでは、ライフセーバーにとって欠かせない とっさの判断力、瞬発力、走力を鍛える。

救命は一刻を争うから、砂浜を走るスピードや持久力も重要だ。スプリントや 2km ビーチランで選手は自らを鍛えていく。

プール競技では、マネキンを運ぶ際、マネキンの口を覆ったり、首を締める体勢になってはならないというルールがある。
実際にレスキューする際、ペイシェント(患者)が呼吸できなければならないからだ。

そしてこれらは全て、ペイシェントを確保した後、各ライフセーバーが適切な救命措置(CPR や AED の使用など)ができることを前提とした上で競われるものであり、競技全体を通して、それがしっかりと意識されている。

一つの証拠に、ライフセービング競技ではゴールの際、倒れ込んでゴールすることは許されない。
溺れた人を助ける(適切な応急処置をして医療機関へ引き渡す)はずのライフセーバーが、浜に引き揚げたところで力尽きることがあってはならないからだ。

毎回の大会で、CPR (心肺蘇生法)の実技テストも行われる。各チームから2人、ランダムで大会当日に選ばれる仕組みで、チームメンバー全員がCPRをマスターしておく必要がある。(例えチーム内選考に落ち、出場種目がない大会でも、これだけは常に選ばれる可能性がある。緊張感たっぷりだ。)

さらに、公式大会に出場するには、一定の条件をクリアしなければならないこともおもしろい。

ライフセーバーの資格の有無や、年間救命活動時間(ライフセービングの監視・救命活動を一定程度行なっていたか)をチェックするのだ。

スポーツで鍛えられる「ライフセービングスキル」は現場で活かしてこそだという、強い信念がつたわってくる。

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おわりに

サーフ ライフセービングの教本にこんな文章がある。

「より高く、より早く、より強く」が競技スポーツの妙味であるならば、ライフセービング競技は、「より安全に、より速く、より確か」に溺者を確保してゴールを目指さなければならない。ゴールの後に表現されるガッツポーつは、まさに「生還」である。このゴールの意味を持って、ライフセービング競技の正しいスポーツ化が存在する。

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この文章が表すように、ライフセービングというスポーツはすべて、いざという時、安全・迅速・正確に生命を救うことを目指し、成り立っている。

スポーツの「ゴール」は何だっていいと思っていた私に、「救うべき生命」という明確な「ゴール」を示したライフセービングというスポーツ。

私自身は、選手としての芽も伸びず、本来このスポーツを大きく語れるような者では到底ないのだが、ライフセービングというスポーツに真剣に向き合い、日々努力する仲間たちをそばで見ているうちに、どんどんその魅力に惹かれ、ライフセービングというスポーツが大好きになった。

応援したいスポーツ」というテーマの募集をみて、ライフセービングのことを書かなければ、と半ば突き動かされるように、今文章を書いている。

ライフセービングの選手同士は、うそみたいと思えるほど、ものすごく仲がいい
異なるチームに所属していてもプライベートで仲の良い友人になったり、大会で他チームのメンバーを応援したり、ライバル選手同士が互いの健闘を讃え合ったり、アドバイスしたりする姿をたくさん目にしてきた。

マイナースポーツで競技者が少ない分、顔馴染みになりやすいというのもあるかもしれないが、
それ以上に同じ目的・ゴールに向かって邁進する仲間、というのが大きいと思う。

競技においてはライバルでありながら、水辺の事故ゼロという大きな目標に向け、苦楽を共にする仲間でもあるのだ。

実際に選手たちと話していても、総じて「他者を負かそう、自分が勝とう」という気持ち以上に、大きな目的意識「生命を守るライフセーバーとして強くなる」ことに主眼を置いている人が多く、感銘をうけた。

選手たちの視線の先には、目先の競争を超えたもの ー もっとずっと大きくて大切なもの ー「救うべき生命」があるなんて。

なんて、かっこいいんだろう。

「自分が遅いと、溺者が助からないかもしれない」
「こんな運び方ではペイシェントを傷つけてしまうかもしれない」

そんなプレッシャーすらバネにして、
「ライフセーバー」としてのスキルをどんどん磨いていく選手たち。

どれだけ誇らしく、頼もしい気持ちになるか。

ライフセービングは、私にとって「応援しなければならない」スポーツだ。

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「自分のため」は「誰かのため」にできること。

その両方のために、頑張れる人の強いこと。

「ゴール」に向き合い、真剣にやればやった分だけ、得られるものも大きいこと。

たくさんのことを教えてくれたライフセービングに感謝して、この文章を締め括りたい。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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おまけ 〜ライフセービングについてもっと知ろう〜

私の文章を読んで、ライフセービングに少しでも興味を持ってくれた人がいたら、こんなに嬉しいことはありません。

もしよかったら、下記のリンク先にもお目通しください。

ライフセービングの活動がすごくよくまとまってる note [ライフセービング新聞 online ]。
良い記事がたくさんあるので、色々と読んでいただきたいのですが、特におすすめなのがこちら。
胸に刺さる言葉でした。
続いてこちらもおすすめ。三井 結里花さんは、ライフセービング界の中で、レジェンド的な存在。一流選手がどんな風にライフセービング競技と向き合っているかが垣間みれます。
[ライフセービングアスリートかとたく]さんのnote.
ライフセービングに対する熱い気持ちが伝わってきます。
Yoshimushi21 さんの、ライフセービング競技について、とてもわかりやすい解説。競技をもっと詳しく知りたくなったら、ぜひ読んでみてください。
今年の海水浴場運営に関して、ライフセーバー・飯沼誠司さんへのインタビュー記事。
安全対策をしっかり施し、楽しく海で遊べる日がまた戻ってきてほしいですね。
海の安全について、こちらの note でも学べます。
海の事故ゼロの未来が早くきますように。


海辺の\ワクワク/を安全に。|海の事故ゼロの未来をつくるノート


ありがとうございました。

#応援したいスポーツ

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