ツインレイ〜彼と出会う10年前のこと
本当に、偶々の、ただの話の流れだった。
昔付き合っていた男の近況を、共通の知人から聞いた私は、いきなり、心を、持っていかれた。
その男と付き合っていた当時に。
当時、私は結婚して、子供も産まれていたし、多少のケンカはあれど、夫とも信頼し合えていたし、日常にそれほど不満はなかった。
はずなのに、その男のことを聞いてからは、私の心は半分、その男に持っていかれた。
家事も育児も、疎かになった部分もあったし、ぼーっとしていて、子供から目を離し、子供がケガをしたこともあった。
元々あったのが見えるようになっただけなのかもしれないが、夫のアラも目に付くようになってきて、夫ヘの信頼でいっぱいだったはずの私の心は、そうではなくなっていった。
何であの時別れちゃったんだろう、何で私たちは結婚できなかったんだろう、って、私はそんなふうにまで、考えるようになった。
悩んだ挙げ句、そんな切羽詰まった思いは決して見せずに、私は、知人から、その男の連絡先を聞き出した。
そして、勇気を出して連絡した。
懐かしかったし、話したかった。会いたいとも思った。何なら部屋に行ったっていいとまで思っていた。
でも返事が返ってくることはなかった。
何回電話しても。メールしても。
当時はLINEはなかったけど、もしあったら、ブロックされてたに違いない。
一番最初の電話が留守電だった時、バカ正直に名乗ったことを私はずっと後悔した。
返事がこない中で、私は一人、その男のことを考えていた。
表向きは普通に日常生活を送っていても、頭の中でしょっちゅう考えていた。
夜、遅く帰る時は、月を見ながら、あの男の住んでいる地域でもこの月は見えているんだろうか、まだ職場だろうか、それとも家に帰っただろうか、そもそも結婚はしているのか、子供はいなさそうな気がする、とか、いろんなことを、考えていた。
私は、孤独だったかもしれない。
そのうち、返事がこないということは、あの男にとって、私はまだ、ただの女友達ではないのだ、と思うようになった。
ただの女友達、ただ、昔一時期付き合ってた相手、なのであれば、え、懐かしいじゃん、元気?と一言返ってきていいはずなのだ。
それがない、ということは、その男にとって、私はまだ、気持ちを捨て切れない、未練のある相手なのか、あるいは、あんな性悪な女には一切関わりたくない、と思うような相手なのか、ともかく、何らかの強い感情がある相手に違いないのだろう、と思った。
そうであれば、あの男の中で、私が、ただの女友達になったら、その時は、返事を返してくれるのではないか、懐かしいね、会って話そうか、みたいに思ってくれるのではないか。
それは十年後、二十年後かもしれない。
でも、それでも、会える時が来るなら、話せる時が来るなら、私は嬉しい。
十年後、二十年後、そういう時が来てもいいように、私は、綺麗でいよう。あまり汚いババアにはなっていないようにしよう。
そんなふうに思った。
そう思った後は、その男のことは、ごく自然に、頭から離れていった。
その後、年相応に、私にもいろんなことがふりかかったし、忙しく日々を過ごす中で、その男を思い出すようなことは、全くといっていいほど、なくなった。
そして十年後、私が出会ったのは、別の男だった。
義両親の介護だ入院だ、何なら結婚生活のどん底も経験した後、やっと少し落ち着いてきた頃。夫に不満はあっても、こんなもんだって思って、何の欲とか憧れとかもなく、ただ日々をやり過ごしていたような、そんな中で。
出会いとか刺激とか、何にも求めてはいなかった日々の中で。
十年前、昔付き合ってた男に心を引っ張られたのは、彼と出会う前の準備だったのかもしれない、そんなふうにも思う。
あれがなければ、私は、十年後も綺麗でいよう、なんて殊勝なことを思うはずがなかったし、体を考えての運動などもするわけがなかったと思う。
それと、彼の吸引力、私の頭と心の引っ張られ方は、昔の男の比では全くなかった。
だから、それもあって、ツインレイという言葉は知らないままに、私は、これはガチなやつだ、ということだけは分かっていたのだった。
もし十年前、ツインレイという言葉を私が知っていたら。
昔の男のことを、そうだと思ったと思う。
一回は別れたけど、結婚してから再会した、みたいに。
結果的には違ったのだろうけど、でも、昔の男は、私が彼と出会うための、準備をさせてくれた、感謝すべき相手とも言えるのだ。
返事が返ってこなかった時期は、何だよ、って私はふてくされていたけれど、あの時、返事をくれなくて、だからこそ私は、十年後、を考えることができた。そしてそれを意識してとしなくての十年は全く違ったはずだから、感謝している。
ツインレイの出会い、はこちらの考えなど思いもよらぬほどに、壮大な道筋が用意されている気がする。
だから、何でこんなことが、って思うようなことがあったり、目の前のことに乗っかるだけ、しかできないことも、あったりすると思う。
それでも、全ては、よき方向に導かれてのことなんだよ、ということは、ツインレイのことに限らず、常に自分自身に言って聞かせたい気もする。
宇宙の大きな流れから見れば、私たちの歩みは、どんなふうに見えたとしても、少しずつでも、よくなっているんだよ、ということ。
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