【精神科病院の不祥事・その3】患者様の紹介・転院をめぐって
【精神科病院の不祥事・その3】患者様の紹介の仕方をめぐって
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」
東京都八王子市・滝山病院における暴行・虐待事件や不祥事にまつわることを、連載し始めています(タイトルに【精神科病院の不祥事】とつけています)。前回は、おひとりの患者様をイメージしつつ、その患者様が滝山病院に転院していたら、どうなっていただろう、という“思考実験”風の記事としました。今回は、その記事で触れた、「患者様の転院」に焦点を当てたいと思います。
4.患者様の転院は、よくあること
医療機関は、どのジャンルの診療をするのか、名乗り出ています(標榜、といいますね)。多数の診療科目を標榜する総合病院(や大学病院)もありますが、ほとんどの医療機関は、多くて3つ4つの診療科目を標榜(小児科と内科、とか)し、診療しています。精神科を標榜している病院が、精神科病院というわけです。
当たり前のことなのですが、一人の人間が、同時に複数の傷病をもつ、ということも充分にありえます。もともと持病を持っていた方が、それとは別の病気を発症してしまう、などという場合です。
精神疾患の治療で入院している患者様も、もちろん、もともとの精神疾患以外の傷病をもつ場合があります。虫垂炎になってしまったとか、転倒して骨折してしまったとか、さまざまなケースが想定されます。
多くの精神科医療機関は、精神科だけを診ます(神経科や心療内科など、関連・類似する診療科目を標榜している場合もありますが)。そのような(単科の、といいます)精神科病院に入院中の患者様が、別の病気にかかってしまったらどうするか。簡単な処置ですむものは、日帰り(外来)で他院を受診します。高度な治療が必要な場合であったら、転院して治療し、その傷病が快癒したら、もともとの精神科病院に再転院する、ということになります。
患者様が他院を受診(あるいは転院)するときには、もともとの医療機関が紹介状を発行して紹介することが通例です。紹介状を介して、患者様を「お任せ」するのですね。
ちなみに、患者様の転院は、「傷病をもってしまった」こととは異なる理由で行われる場合もあります。病院の病床は、その役割によって、いくつかグループ分けされています。精神科であれば、「救急」「急性期」「療養」「認知症」などの病床種別があります。本題から外れるので詳しくは書きませんが、救急や急性期の病床は、報酬単価が高い一方、比較的手厚い人員配置や、入院期間に関する制限などの厳しいルールが課せられています。ある患者様が救急病床に入院したものの、治療経過から病床の運用ルールにそぐわなくなってしまう場合には、療養病床に移動させる場合があります。自院の療養病床に空きがなければ、他院への転院が提案される場合もあるのです。
5.滝山病院事件で、私たちが傷ついた理由は何か
暴行・虐待事件をはじめ、さまざまな不祥事が報じられた滝山病院は、内科疾患を抱える慢性精神疾患患者様を多く受け入れていた病院として知られていました。精神疾患患者さまの内科疾患(身体合併症、といいます)の治療の難しさは、後に記事で取り上げるつもりなのですが、ここでは、身体合併症の慢性精神疾患患者様を受け入れてくれる、数少ない精神科病院が滝山病院だった、ということを確認しておきます。
滝山病院事件の報に接し、世間には困惑と動揺、怒りが湧き起こりました。精神科医療や精神保健福祉に携わる(私を含めた)人間も、動揺し、怒り、傷つきました。それはひとえに、(少なくとも可能性としては)私たちが滝山病院に患者様を送り込む(紹介する)側、加害者の側にあったと理解したからです。
加えて私たちは、滝山病院に頼らなければ身体合併症をもつ慢性精神疾患患者様を満足に診ることができない、非力な存在でもあったのです。患者様を自院で診られていない時点で、滝山病院を一方的に非難する立場にはいられません。少なくとも滝山病院は、身体合併症の患者様を(そのやり方をよけておけば)“受け入れ”、“診て”いたのですから。
私たちは、二重、(患者様自身の立場に対する共感、を含めれば)三重に戸惑い、傷つくことになったのです。この戸惑い、傷つき、怒りから、何らかの教訓を導き出し、事態の改善につなげる道義的な責任が、私たちには課せられています。
(つづく)