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【精神科病院の不祥事・その4】患者様の紹介を丁寧に行う

【精神科病院の不祥事・その4】患者様の紹介を丁寧に行う
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 東京都八王子市・滝山病院における暴行・虐待事件や不祥事にまつわることを、連載しています(タイトルに【精神科病院の不祥事】とつけています)。その4回目となる今回は、患者様の紹介を工夫することにより、滝山病院問題につながる精神科医療の諸事情を改善できないか、という提案をしてみたいと思います。

6.これまでの記事で語ってきたことの整理


 ここまで私は、多くの精神科医療機関が、身体合併症を持つ慢性精神疾患患者様をきちんと診られておらず、そのため(どんなに質が低くとも)そういう患者様を診療する、と手あげをしてくれる病院に患者様を紹介しがちになってしまう、という可能性について触れました。

 私の指摘は、滝山病院問題と言う“巨象”を、一つの方角から眺めただけの、不十分で偏ったものであることを、私自身が充分に承知しています。それでも、何らかの具体的な対処・工夫を提案できることを優先し、話を進めたいと思います。

7.患者様を紹介しっ放しであることの弊害-丸投げ型の連携


 医療や福祉の領域で、専門分野ごとに役割の分担があり、自分がカバーできない分野はその筋の専門家に紹介する、ということ自体は、きわめて合理的な振る舞い方です。問題となるのは、その“紹介の仕方”だと考えます(実は、精神科医療では、精神科が“メンタルしか診られない”こと自体が問題だと考えてもいますが、それは後々論じます)。

 保健医療介護福祉などの現場では、本来、丁寧に行われるべき紹介が、乱暴に行われてしまう事態を、俗に“丸投げ”と表現します。

 “丸投げ”型の紹介とはどのようなものか、(いま私が携わっている)障がい者の就労支援を例にご説明します。就労を希望される障がい者に対して、職業訓練(を中心とした包括的な就労支援)を提供する「就労移行支援」というサービスがあるのですが、利用期間が原則2年(合計2年を超える複数回の利用もできない)と定められています。利用期間のルールの是非はさておき、2年間の支援で就労に結びつかなかった場合、他の障害福祉サービス(例えば、職業相談などを行う障害者就業・生活支援センター(いわゆるナカポツ)など)に紹介し直すことになるのですが、ここで“丸投げ”を行う施設が多いのです。すなわち、電話1本で紹介する、または電話すらせず、「ナカポツに自力で行ってください」と利用者に伝える、などです。2年間の支援で就労に結びつかなかったのは、何らかの事情がある(しばしば、当該就労移行支援事業所の支援が残念なものだった、ということ)はずで、その情報を引き継ぎ、紹介の同行する、などを丁寧に行ってはじめて、引継ぎ先での支援が機能するのですが、それを端折った“丸投げ”型の紹介が、蔓延している状況なのです。

8.紹介を丁寧に行い、紹介元も一定の責任を持つ仕組みの提案


 それがデフォルトになってしまっているので、内部の人間には意識できないのかもしれませんが、医療での紹介状を介した紹介のし方も、しばしば“丸投げ”です。それは、患者様の紹介に関する診療報酬が手薄である、という事情がある、ということに他ならないのですが、「紹介のあり方」を改めることで、滝山病院問題の背景の一部を改善することができるように思います。

 具体的には、患者様を他院に紹介した後の一定期間(半年とか一年)に、当該患者様について、紹介元と紹介先とが合同で、多職種のケア会議を行うよう定める(その会議に診療報酬をつける)のです。紹介先が遠地であるなら、オンライン開催でもよいのです(コロナ禍がもたらした数少ない恩恵ですよね)。

 仮に精神科的ケアが難しい患者様でも、紹介元の看護師さんらが「こういう場面で不穏になりやすいが、こう対処すると上手く切り抜けられましたよ」などとアドバイスできれば、紹介先の看護師さんがケアに活かすことができ、患者様の転院先でのケアの質も上がります。何より、精神科医療の世界には閉鎖的な面が色濃く残るのですが、他者(紹介元)の目が入れば、紹介先の医療機関も、乱暴なことはしにくくなります。同業者とはいえ、他者に“筒抜け”になってしまいますから。

9.発信し続けることの大切さ


 上記の提案は、診療報酬制度に関わることであり、現場の人間が介入する余地の極めて狭いアイデアだと承知はしています(現場の人間にできるはずの、丁寧な紹介、丁寧な連携の仕方は、まだまだ工夫する余地があると思います)。

 それでも、発信していれば、誰かの目に留まり、事態を動かすきっかけになるかもしれません。私がお手伝いしている社会福祉法人が主催した支援者向け研修に、厚生労働省の課長さんがご登壇して下さる機会がありました(私もオンラインでの打ち合わせに参加しました)。それなりに経験を積んだ中堅・ベテランの支援者の中には、このように行政の“立場のある方”と接する機会のある方もいらっしゃるでしょう。発信していれば、行政のどなたかに、届くかもしれないのです。諦めてはいけないのです。

(つづく)

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