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【精神科病院の不祥事・その5】精神科医療も、からだを診られるように
【精神科病院の不祥事・その5】精神科医療も、からだを診られるように
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」
東京都八王子市・滝山病院における暴行・虐待事件や不祥事にまつわることを、連載しています(タイトルに【精神科病院の不祥事】とつけています)。これまでに、患者様の紹介の仕方を考察し、不祥事を産まない・育てないための一つの提案をしました。
身体合併症(透析が必要なCKD=慢性腎疾患など)を持つ慢性精神疾患患者様を積極的に受け入れてきたことが、(仮に劣悪な治療であったとしても)滝山病院が存続できた大きな理由になっています。これから数回にわたり、精神科治療における身体疾患の扱い方について検討することによって、滝山病院問題の背景を理解し対策を見出したいと思います。
1.精神科医療が、身体疾患を診られないままではいけない
眼科医が虫垂炎を診られないように、産科医が骨折を診られないように、精神科医は身体疾患を診られないものです。医師免許は汎用であるにも関わらず、標榜科目ごとに診療領域と役割分担がはっきりしていて、標榜科目外の患者様は互いに紹介し合う、という仕組みになっています。新たな治療技術の開発など、医療は年々高度化していくものですから、その道の専門家にお任せする、という仕組みには一定の合理性があるといえます。
それでは、精神科医療は身体疾患を診られないままでよいのか、というと、私にはそうは思えないのです。精神科医療は「からだの健康」に関心と知識を持ち、必要に応じ検査を行い、自施設で可能な範囲で対策(生活習慣の指導を行うなど)をする必要がある、というのが、(患者様の紹介の仕方、を第一とすれば)私の二つ目の結論になります。それぞれの医療機関で身体疾患の予防と対策がそれなりに行われれば、そもそも劣悪な滝山病院に患者様を紹介しなければならない必然性は減少するのですから。
2.精神疾患は、さまざまな身体疾患の背景となる
精神科医療が「からだの健康」にも配慮する必要があるとする理由は、精神疾患が直接間接的に、さまざまな身体疾患の原因や背景となるからです。
慢性統合失調症患者様は、食生活や身体活動の変化(栄養摂取の偏りや運動不足)から、さまざまな生活習慣病を引き起こしやすくなります。神経性やせ症の低体重は、直接的に身体病の原因となりえます。イライラをおさえるために飲酒や喫煙の習慣を手放せなければ、肝疾患やCOPD(慢性閉塞性肺疾患=いわゆる肺気腫)などにつながるでしょう。
3.精神科での治療が、からだの健康を損なうことすらある
精神疾患が身体疾患に影響するだけではありません。精神科での治療自体が、からだの健康を損なうことすらあるのです。
向精神薬(特に、非定型抗精神病薬)には、血糖値の調節がうまくできない副作用(耐糖能異常といいます)を示すものがあります。肥満からさまざまな生活習慣病につながる可能性があるのです。向精神薬の副作用では、ひろく「便秘」(抗コリン作用による)が知られますが、便秘は腸内細菌叢の変化を介し健康に影響を与えます(重度の便秘は、腸閉塞など直接的な健康被害にも繋がります)。
治療環境がからだの健康に与える影響も小さくありません。閉鎖的な環境での身体活動不足や、治療食の栄養の偏り(不思議に思われるかもしれませんが、病院での治療食では、たんぱく質が不足しがちであることを指摘する意見があります。参考文献参照)も、長期的にからだの健康を損なう原因となるでしょう。
4.まとめ:精神科治療が、からだの健康に気を配ることの必要性
精神科治療が、からだの健康に気を配ることの必要性を、ご理解いただけたのではないかと思います。今回お話した内容を、1枚のスライドに図示したものを貼り付けておきます。ご参照ください。
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参考文献
奥平智之 2019 「栄養型うつ」の種類と対策 精神看護22(1) pp.97-103.
(つづく)