【本のご紹介】菊池正史 「『影の総理』と呼ばれた男 野中広務 権力闘争の論理」
菊池正史 「『影の総理』と呼ばれた男 野中広務 権力闘争の論理」 (講談社現代新書 2018年)
物心がついて、政治の世界でのあれこれに意識を向けるようになって以来、私にとっては、野中広務氏(以下敬称略)には、金丸信氏と並び「政局を裏から操る実力者」としての黒々としたイメージがあった。裏にあったものが日の目を見ると、実は全く異なったものに見える、という好例のような読書だった。
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被差別地域に生まれ、戦争の不条理を体の芯から体験し、その結果「(自ら選んだわけではない境遇にある)弱い者とともに歩む」「二度と戦争の惨禍を繰り返さない」「大衆の豊かさを大切にする」という戦後保守本流の思想と、“エリート主導の政治は誤る”ことを前提に「調整」を重んじ協議と妥協(時に恫喝)を厭わない政治姿勢を終生手放さなかった人間・野中の、生涯をかけた闘争が描かれる。
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今日の政治を支配する「決める政治」の歴史的必然とその弊害、そして国民一人ひとりがプレーヤーとしてその経緯にどう関わってきたのか、改めて振り返させられた。
一昔前の密室での「調整」政治は、あらぬ疑心暗鬼を産み、今日の各種「陰謀論」誕生のきっかけとなったかもしれないななどと邪推してしまう反面、「調整」そのものを否定してはならず、複雑化する社会においては「熟議」が一層求められること、そしてその結果として「決める政治」を「決めつける政治」にしてはならないことを、改めて確認した。
(おわり)
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