【精神科病院の不祥事・その6】治療はできずとも、検査はできる
【精神科病院の不祥事・その6】治療はできずとも、検査はできる
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」
東京都八王子市・滝山病院における暴行・虐待事件や不祥事にまつわることを、連載しています(タイトルに【精神科病院の不祥事】とつけています)。滝山病院が身体合併症を持つ慢性精神疾患患者様を受け入れていたことに鑑み、精神科治療における身体疾患への関わり方を振り返りつつ、何らかの提言ができればと考えています。前回の記事から続いています。
5.身体科の「治療」が難しくても、できることがある-検査
前回の記事で、精神疾患とその治療が、身体疾患に密接にかかわっていることをご説明しました。願わくば、精神科医療の中で、ある程度身体疾患も診られるようになることが望ましいのですが、ことはそれほど単純なものではありません。身体疾患の治療に必要な知識やスキルだけでなく、医療機器や医療材料、専門のスタッフなども増えていくことが、精神科治療のキャパシティをさらに圧迫してしまうことも考えられます。
それでも、精神科医療にできることがあります。それは、身体疾患の予防のための取り組みと、早期発見のための「検査」です。
6.精神科医療における「検査」
精神科医療の中で行われる「検査」といわれ思い浮かべるものは、何でしょう?心理検査?あるいは脳波の検査でしょうか。実は、それ以外にも、精神科医療では、さまざまな検査が行われます。血液検査(一部の向精神薬の血中濃度を測定できる。血糖値・脂質などを測定できる)や心電図、各種画像検査などがその代表です。
内外の、主に統合失調症の各種診療ガイドラインでは、定期的な身体モニタリング(検査)が推奨されるようになっています(参考文献参照)。検査項目によりますが、ベースラインの把握と、維持期には概ね年1回以上の検査を推奨する、というものです(検査はそれ自体が侵襲的である場合があり、やみくもに何度もやればいいものではなく、適正な実施頻度がある、ということを申し添えます)。
7.検査の充実を!
精神科医療の現場での検査は、実はそれほどマメに行われている訳ではない、というのが実情です。多忙な精神科医(検査のオーダーをする、また自ら採血をすることを厭う)、患者様の抵抗(検査を不要と思ってしまう、痛いから嫌だなど)、資源の不足(使用する機器がない)、スケジューリングの問題(長い診療経過の間に忘れてしまう)など、さまざまな要因があるように思います。
それでも、検査の充実のためにできることは多いものです。非医師の医療者がサポートする、医療者が患者様に声掛けする、近隣の内科クリニックと連携し、検査とフォローを頼む、などです。
医師や看護師の声掛けを警戒する患者様でも、信頼するワーカーさんの言うことなら受け入れてくれる、という場合もままあるので、全ての医療者が足並みを揃えることが大切に思います。
8.患者様自身にできること
からだのモニタリングについては、患者様自身ができることも多くあります。
体重や血圧は、体重計・血圧計をお持ちであれば、ご自身で測定することができるものです。持病や医師の指示がない場合には、最大で日に1回、時間を決めて測ればよく、数値に普段と異なる変化があれば、主治医に報告相談すればよいでしょう。
体重計・血圧計をお持ちでなければ、通所施設(あれば)や訪問看護を受ける時などで、測定できるとよいでしょう(訪看では、こちらから言い出さなくともやってくれる場合が多い)。
採血や心電図などは、患者様から主治医に問い合わせする(「前回検査して1年経ったので、そろそろ次の検査をお願いできますか」など)とよいでしょう。
職場での法定の健康診断や、国保の住民健診などの機会がある時には、忘れず受検することも大切です。
からだの健康づくりへの意識が高まり、検査が適時行われるようになり、身体疾患を予防・早期発見できるようになれば、必然的に滝山病院のような(必ずしも質の伴わない)身体合併症医療のニーズは、減っていくものです。
参考文献
古郡規雄 2018 統合失調症患者の身体モニタリング 精神神経学雑誌120(12) pp.1095-1100.
(つづく)