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【精神科病院の不祥事・その7】治療はできずとも、予防はできる

【精神科病院の不祥事・その7】治療はできずとも、予防はできる
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 東京都八王子市・滝山病院における暴行・虐待事件や不祥事にまつわることを、連載しています(タイトルに【精神科病院の不祥事】とつけています)。滝山病院が身体合併症を持つ慢性精神疾患患者様を受け入れていたことに鑑み、精神科治療における身体疾患への関わり方をよりよくしよう、と訴えています。前回は、「検査」の大切さに触れました。今回は、「予防」における非・医師、非・看護職の役割から考えてみたいと思います。

9.治療は医師、診療の補助は看護師にしかできないが、予防にはどの職種・どの分野の人でも関わることができる


 医療職の人間には当然のこと(ただ、一般の方には馴染みがないかもしれないので、改めて記します)なのですが、診療(病気の治療)は医師の独占的業務(その資格を有さない者が携わってはならない)であり、診療の補助は、看護師が業務独占しています。身体疾患の治療でも精神疾患の治療でも、この原則は揺らぎません。でもこのことは、他の医療職(作業療法士や理学療法士、薬剤師、精神科なら精神保健福祉士や公認心理師など)をして、身体疾患の治療への関心を薄れさせ、他の誰か(医師や看護師)にお任せ・丸投げさせてしまう、一つの背景になっているのではないでしょうか。

 診療行為(とその補助)は、医師(と看護師)の独占的業務なのですが、広い意味での保健、あるいは予防のためのケアは、非・医療職を含め、全ての人が携わることができるものです。

10.皆ですすめる「からだの健康づくり」を考える


 高血圧を例にご説明します。

 高血圧は、血管を傷つけ、臓器を痛め、さまざまな慢性疾患の背景となります(自覚症状に乏しいまま、致死的な疾患の原因になりうるので「サイレントキラー」と呼ばれたりする)。血圧はさまざまな要因で上がったり下がったりするものではありますが、一定の水準以上に高すぎる、あるいは併存症の状況によっては、「高血圧症」として高血圧自体を治療の対象とします。治療は、薬物療法(降圧剤治療)と生活指導が中心(高血圧の原因となる別の身体疾患がある場合には、その原疾患の治療も大切)になります。

 降圧剤の処方(治療)は、当然、医師にしかできません。しかし、生活習慣の改善には、さまざまな職種が関わることができます。塩分摂取を控えることが高血圧予防に大切なことはすでに広く知られていますが、減塩に取り組みつつ豊かな献立を考えることには、栄養士や調理師の方が貢献できます。過重なストレスが血圧に影響することもよく知られますが、ストレスマネジメントには心理士が関わることも可能です。

 何なら、専門職ですらない立場で高血圧予防に携わることも充分に可能です。客が減塩メニューを選ぶことができるよう、提供するメニューの塩分量を表示することは、外食産業の方にできることです。減塩した加工食品を開発・販売することは、食品メーカーの方にできることです。ウェアラブル端末で、血圧を含めた各種生理データを計測し、高血の高さや変動に対しアラートを出してくれるアプリがあれば、血圧が変動しやすいタイミングを避け入浴することができ、浴室での突然死(いわゆるヒートショック)を減少させることができるかもしれません。これはソフト開発会社の方が取り組むことができるものですね(このようなアプリは既にあると思いますが)。

 治療には医師・看護師が携わるのですが、予防や保健・健康づくりの領域では、あらゆるコメディカルスタッフや、非・医療職の方も携わることができるのです。

11.精神保健分野での予防や保健・健康づくりに関心を持ち続けよう


 精神疾患をお持ちの方のからだの健康は、生活習慣の変化や精神科治療を介して、さまざまに損なわれがちであることは、前々回の記事で触れました。

 ただ、精神疾患に特異的な身体症状・疾患があるわけではなく(悪性症候群やQT延長、高プロラクチン血症など、薬物療法の副作用の一部は、精神科特有のものといってもよいが)、多くは一般の生活習慣病と密に関連するものです。生活習慣病とその予防についての基本的な知識があれば、精神疾患をお持ちの方のからだの健康づくりに、それぞれの現場で充分に対応可能ではないかと、私自身の経験から考えています。

 ちなみに、精神保健医療福祉領域で、精神疾患をお持ちの方に関わる際に、理解しておくとよいと思われる、身体疾患や保健・公衆衛生上の諸テーマについて、表を作ってみました(あくまで私見であることにご留意ください)。

 精神疾患をお持ちの方の身体的健康を守るために必要な知識をおさらいするための専門職向けコンサルテーション(研修)を、構想中です。すでに非常にボリューミーな内容であるため準備に相当な時間を要するものと思われますが、遠からず形にしたいと思っています。これは、滝山病院を巡る報道に接した私の、精神保健医療福祉に携わる者としての“責任”ですから。(でも、助言するよ、手伝うよ、という医療福祉関連の専門職の方がいらっしゃったら、飛び上がって、涙を流して?喜びます。お声掛けください)

(おわり)

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