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【本のご紹介】ビゼイ・ゲワリ著、田中雅子監訳編著 「厨房で見る夢 在日ネパール人コックと家族の悲哀と希望」

ビゼイ・ゲワリ著、田中雅子監訳編著 「厨房で見る夢 在日ネパール人コックと家族の悲哀と希望」 (上智大学出版 2022年)

 最近、どの駅前でも見かけるインネパ料理店。その多くで、インド人やネパール人がコックさんとして働いています。「りら」のある東小金井駅そばにも、私が知る限り4店舗もあります(さすがに、新小金井駅付近にはないな)。

 ただのエスニックフードブームなのかと思いきや、そこにはネパール人の来日と滞在、就労や、ネパール社会のさまざまな問題(そして日本社会の問題も)が現れている、というのです。

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 日本では外国人の就労は、ある一定の枠組みのなかで認められています。その中で、“熟練した技能を要する業務”に従事する「技能」資格、特に調理や食品製造の技能で“外国において考案され我が国において特殊なものを要する業務”としてのコックは、来日・就労するネパール人にとっての有力な選択肢となるのだそう。「タンドール窯でのナンの調理」が、“特殊なもの”に該当するのだ、と。

 ところが、タンドール窯でチーズナンを焼くことは、苦痛を伴い技能を要するもののようです(だからこそ“熟練した技能”なのですが)。本書では、ネパール人コックのタンドール窯での火傷のエピソードが、最初に描かれます。

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 日本でレストランを続けるのは困難なこと(それはそうだ)、昼夜問わず働き心身を損なう人が相次いでいること。

 そのため、「技能」資格から「経営・管理」資格に乗り換えるべく自分の店を構え、呼び寄せビジネス(訪日を希望する人から百万円以上預かり斡旋する)に手を染める者も多いこと、そこにはさまざまな不正があること。

 それでも、成功者は「多額の斡旋費を支払ってでも、来日できてよかった」と思っていること。その背景には、政府軍とマオイストとの内戦で荒廃し、国外で生計を得なければ生活苦から抜けられない、ネパールの状況があること。

 日本の入管制度や社会保障制度は、来日者とその家族にとって、決して“親切”な仕組みではないこと…。ネパール人コックを巡るさまざまな側面が語られます。

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 筆頭著者のビゼイ・ゲワリ氏は、ネパールから来日し、大学院で博士号と臨床心理士資格を取得し臨床や研究、社会活動で活躍した“異色の”経歴の持ち主。同胞たちの苦境に客観的中立的態度を保ちつつ(学問的にはそこが大事)、あふれる共感を隠そうとしない、力作だと感じました。

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 最後に、著者と監訳編著者(田中雅子氏)の結語を、それぞれ引用・紹介しておきます。これは私たちの“宿題”ですね。

日本の人たちが、インド・ネパール料理店でカレーやナンを食べ続けたいなら、解決しなければならない課題は多い。日本社会は、料理店の狭い空間にこもって、汗を流しながら、夢と希望を鍋の中でかき混ぜているコックたちと、つながらなくてはならない。

本書p.162.

読者には、彼らの苦境を他人事とせず、彼らを受け入れる日本の制度や社会が問われていると考えてもらいたい。そして、次にネパール人コックに出会ったら、ぜひ温かくやさしい言葉で声をかけてほしい。

本書pp.186-187.

(おわり)

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