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【精神科病院の不祥事・その13】暴力の文化を根絶するための内部管理

【精神科病院の不祥事・その13】暴力の文化を根絶するための内部管理
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 東京都八王子市・滝山病院における暴行・虐待事件や不祥事にまつわることを、連載しています(タイトルに【精神科病院の不祥事】とつけています)。

 暴力を許容ないしは推奨しさえする、組織の“風土”や“文化”を根絶し、合理的な運営へと軌道修正させることができるのか、考えています。前回は、“現場から腐っていく”組織への処方箋を示しましたが、組織は“頭から腐っていく”場合もあります。個々人ではなく、組織そのものを変えていく視点もあわせて持たなければならないのです。

4.ほとんどの医療機関が“中小企業”であることの弊害


 海外と比較し、日本は医療における民間セクターの占める割合が非常に高く(約8割)、一部の大規模医療法人グループを除き、医療機関はほとんどが、職員数数百人以下のいわば”中小企業”です。

 “中小企業”としての医療機関は、残念ながら、内部管理体制の整備が不十分で、合理的な組織運営の基盤が整っていないケースが、まま見られるように思います(私が病院在職中に、あちこちの医療機関にお邪魔させていただいた経験からの私見ですが)。

 内部管理体制の整備が不十分だと、トップの意向のみで意思決定がなされるケースがあります。組織内で不祥事が起きても、トップが隠蔽してしまえば、腐敗は加速度的に進んでいきます。逆に、トップの意向やリーダーシップすらなく、事業環境の変化に対してふらふら意思決定がままならない組織も散見されます。残念なことです。

5.大切なのは「組織図」と「就業規則」


 「内部管理体制」と一言で申し上げた中で、職員による暴力行為などに関わる大切な要素は、「業務が適切に分担・連携されるための組織化がなされていること」と「職務遂行上必要十分な規則・規定・マニュアル類が整備されているか」の2点だと思われます。この連載の趣旨からすれば、前者は「詳細な組織図が作成され、そのとおりに業務や情報が疎通していること」、後者は「就業規則の内容が合理的であり、組織内で周知され遵守されていること」と言い換えることができます。

6.組織に、適切な窓口や通報ルートが設けられているか


 組織は、起こった問題の情報を収集し対処する部署(窓口)とルートを持っているものです。例えば、ハラスメント事案が生じたとき、当事者が報告する窓口の整備や適切な対処が、法(雇均法や労働施策総合推進法)によって企業に求められています。医療者に馴染みがある話でいえば、医療事故やヒヤリハット事例を収集し分析・対処するための担当者(セーフティマネージャーや医療安全担当部署)が定められ、インシデントレポートなどによる現場からの報告ルートが設けられているはずです。

 医療機関内で起こった暴力事件などを扱う部署(医療安全担当部署や倫理委員会など)は、適切に定められているでしょうか。その部署への報告ルート(直通のメールアドレスなど)は整備されているでしょうか。それが組織図上にきちんと位置づけられ、存在が周知されているでしょうか。公益に関わる通報(職員による暴力行為の告発など)であれば、その通報者は守られる仕組みになっているでしょうか。

 組織図が整備されていることは、結構大切だと思います。それは、ある部署(担当者)で問題が生じた時に、対応に責任を持つ上位部門・上席が明確になっていることを意味しますから。

7.就業規則が合理的に整備されているか


 労働者が自らの権利を護りつつ労務の提供をしていく拠り所が、各種労働法の理念と事業所ごとの特徴を適切に反映した「就業規則」です。

 労働契約において、労働者の責務として定められることが多いのが、「職務への専念」や「信用失墜行為の禁止」などだと思います。医療者による患者様への暴力行為などは「信用失墜行為」の最たるものだと考えられるのですが、「就業規則」(や、人事労務関連の諸規則)に、信用失墜行為に対する組織的な取り扱い(懲戒など)が、明示的に記されているでしょうか。それが不十分だと、仮に信用失墜行為がなされたとしても、組織としては規則に則った合理的な対応ができず“お手上げ”になってしまうことになります。

 「就業規則」などにおいて、信用失墜行為や懲戒の内容などが、具体的に定められているでしょうか。懲戒を行う手順(懲戒・懲罰委員会の開設など)や基準(訓戒告から諭旨・懲戒解雇までの懲戒の程度と、判断基準など)は定められているでしょうか。それらの定めは周知されているでしょうか。

8.現場の皆さんにできること


 組織そのものに手を入れたり、各種規則を改めたりすることそのものは、現場の従事者一人ひとりの職務の範疇を大きく逸脱するものです。管理監督者(の中の上位者)が適切に対応することが、切に望まれます。

 けれども、現場の従事者にできることがない訳ではありません。それは、「上席に問い合わせること」です

 「院内で、職員の不祥事を見聞きした時、通報できる窓口はどこですか?通報者の秘密と安全は守られますか?」「職員の不祥事が起きた時、就業規則上どのように取り扱われますか?」などと、尋ねてみるのです。

 その問い合わせを受け、上席たる管理監督者がなにがしかの行動をとれば、その分だけ組織は変わります。皆さんが、そのきっかけになることができるかもしれないのです。

(つづく)

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