2022年7月の記事一覧
通り雨【たいらとショートショート】
「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
と店員に声をかけられた瞬間、目を見開いた。
この声…。
ハッとして目を伏せると、メニューも見ずにカフェラテ、と言った。聞こえるかどうかわからないくらい小さな声だったにも関わらず、彼女はニコリと注文を繰り返し店の奥に消えた。
雨粒が無数に降り注ぐ窓の向こう側では、せわしなく人々が行き交い通り過ぎていく。ランチをとっくに過ぎた時間、客はまばら。店内は雨音ひ
【夏の香りに思いを馳せて】夏の亡霊
痛いほどの日差しを浴びながら、坂道を登る。
そこには学校帰りにいつも立ち寄っていたお店があった、はずだった。
あれから10年が経ち、今はもうお店ではなくなってしまっている。僕たちはそこにあるバス停のベンチに腰を下ろして、氷菓を頬張りながら嘘みたいに形の良い雲がそびえる夏空を見上げ、どうでもいい話をしては笑い合っていた。
その店には毎年夏祭りのポスターが貼ってあって、それを見つけるたびにいつ行こ