手に負えないほど複雑な世界の中で。
『センスメイキング 本当に重要なことを見極める力』を読んで、いろいろと学びがあったので、こちらにメモ書き。
元々友人がもっていた本をぱらぱらめくっていたのが始まりで、本腰入れて読むつもりは全然なかったのだけれど、昨今の「世界を理解するためのレンズをやしなう」というテーマに合致していたからか引き込まれてしまった。
テーマとしてはSTEM*偏重となっている現代に対して、もっと哲学や文学などの人文科学の視点を取り入れていくべきという内容。そこまで二項対立で考えなくても・・・と最初は思ったが、それでも哲学を大学で学んできたバックグラウンドからすると、ビジネスの世界における息苦しさみたいなものがうまく言語化されていて納得する部分も多かった。
「美意識をやしなうことの大切さ」は山口周さんをはじめとして昨今よく取り扱われるテーマだけれど、その中でもデータ偏重のビジネスの世界で主観や具体の意義をうまく説明している一冊だと思った。
(*STEMは、Science・Technology・Engineering・Mathematicsの略ですね。)
こちらのnoteでは以下の3つのテーマで、センスメイキングに関する学びを書き残してみる。
1. 現代だけが特別変化の大きい時代ではないという視点
2. 今の時代だからこそ、自分の主観をやしなうことの大切さ
3. ルールの理解と経験の集積を経て、達人への道が開けるということ
1. 現代だけが特別変化の大きい時代ではないという視点
昨今の煽り文句として「変化の大きい時代だから」というような趣旨を多く聞くようになったけれど、どこかその考え方引っかかりがあるような気がしていた。
『センスメイキング』の本の中で、著者の祖母の時代には2回も世界レベルの大戦が起こっていて、大量生産時代を経験することで飢餓も飽食もどちらも経験しているし、その上ペニシリンまで発明されたり、と祖母の方がよっぽど変化の多い時代を過ごしている、という趣旨の話が書いてあり、なるほど、たしかに先人たちの経験した変化も大層大きなものだったよなと先の小さな違和感が解消された気がした。
マクロでみると、現代はハード面の大きな変化はむしろ少なくて、より身近な生活が便利になったり価値観が多様化したりといったソフト面の変化が大きい。世間の関心が「(世界や国が)体制としてどうあるべきか」という大きな視点から「よりよく生きるためには」といった個人レベルの生活へと移っていったために、ミクロな視点において「変化が大きい」と感じるようになったのではないかとふと思った。
マズローの欲求5段階における下位レベルが満たされているからこそ、より便利さや心地よさがクローズアップされ、その視野の中での変化が大きくなったと捉えられるのかもしれない。
2. 今の時代だからこそ、自分の主観をやしなうことの大切さ
「現代こそが変化の著しい時代なのである」といえなかったとしても、「現在の世界が手に負えないほど複雑だ」と思うことは、実感として多い。
自然科学の発達により、あらゆるものが測定・分析されるようになることで、世界を「事実の集合体」として捉えなければという強迫観念が時代の空気として存在しているからだ。実際、ビジネスの場では、事実や数字をもってこないと議論が始まりさえしないことも多い。「データがあるのだから、わかって当然」という暗黙の了解ができあがってしまっているのだ。
「測定可能」なデータをもって意思決定を迫られる時代の中、自分の主観で総合的に物事を判断できることの重要性は高まる。
それを、センスメイキングの著者は「GPSではなく、北極星を持つ」という表現をしていたのが、非常に秀逸だった。
相互依存的なシステムではなく、自分だけの動かない星を持つこと。自分が信じているものも、ところ変われば、否と見なされることもある。データ偏重の現代には、測定可能なものも人間的なるものもひっくるめた「自分の判断」に自信を持って生きる強さが重要だと感じた。
3. ルールの理解と経験の集積を経て、初めて達人への道が開けるということ
しかしデータを越えて「自分の判断」に自信を持つことは非常に困難だ。
そう考えたときに、この本の中盤に記載のあった哲学者ドレイファスの著作 "Mind Over Machine" の「人間は段階を踏んでスキルを習得し、達人に至る」という考え方には勇気を与えらえれる。
ざくっとまとめると、人がスキルを獲得し、勘で判断できるレベルの達人に至るまでには以下のような一連のステップを踏むという主張である。
第一段階(初心者レベル):文脈に依存しない要素に基づいて行動を決定するルールを身につける。ルールに従って、情報処理を続ける。
第二段階(新人レベル):経験に基づいてパターンを認識できるようになる。状況に沿ったパターンを判断できるようになる。
第三段階(一人前レベル):意思決定の要素を階層構造で理解し、目の前の状況に最もふさわしい要素を優先して検討できるようになる。
第四段階(中堅レベル):目の前の状況を全体として捉え、迅速で流動的、しかも複雑な行動ができるようになる。
第五段階(達人レベル):頭で考えず、身体の記憶で動くようになる。何をするにしても要素同士の関わり具合は複雑を極めるので、頭で考える余地はなく、論理的な意思決定をしない。
達人までの距離が長いっ、とも思えるが、逆にこのステップを踏むことで、着実に自分の主観に則って判断を下すことに自信を持つことができる、とも言える。
研鑽し、自分の道を極めることで、主観をもって判断を下すことに躊躇ない「達人」へ至れる。自分の好きな分野で、日々努力を重ねていくことで主観がやしなわれると、背中を押された気分になり、勇気づけられた。
この本はかなり過激にSTEMに対する否定をしており、そこまでの対立価値観としてSTEMと人文科学を捉えたことはないけれども、それでも自分の日々の研鑽に対して勇気づけてもらえる一冊だと感じたので、ぜひ人にもおすすめしたい!です。
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