ちょっぴりブルーなヒバリ 2
僕の知り合いは言う
夢を見ているときって、すぐ夢のことに気づくよね
だから安心してみてられるよ
最近見た夢は学校の中で悪い人に追いかけられる夢だったんだけど、合理的に考えてそんなことあり得ないしすぐ夢って気づけたんだよね。
周りにいる人たちも
うんうん
と同意を示している
中には自分も似たような夢見たことあるけど、夢って気づくよね
と声高らかに言う人もいた
それを聞いて、
あ、夢ってそういうものなんだ。僕がちょっとおかしいのか
と気づいた
彼らは、夢を夢と気づけるだけでなく、現実にはないことを体験できているらしい。僕もそうありたかったなー
僕は夢を夢と思うことができない
夢を見るときは必ず
一人称視点で立っている幼いままの僕から始まる
そして、毎回僕の体験談だけが思い出される
結局その日の夜も同じ夢、ここまで来たら現実と言ってもいいだろう
そんなのを見た
肌寒い夜
息は白く、少しもやがかかっているようにも思えた
家に帰りたくない
でも、この歩みを止めたら、、、
周りは、クリスマスに向かってイルミネーションできれいに飾られていた
赤、紫、黄色
様々な色でこの都市がおおわれている
それに見とれる人々の瞳には同じ景色が反射している
ガラスの瞳とはこういうことを言うのだろうか
人々のぬくもりが感じられる景色に美しいと感じる自分と
必死に抑えようとする自分がいる
言いたくもないけど、100%抑え込む力が勝つ
ここで喜んでしまったら僕はこれから気持ちの落差に絶望することになるだろう
そんなことは感じたくもない
家に近づいていくごとに動悸が激しくなり、嗚咽もする
さっきまでもやがかかっていると思っていた白い息は、自分の涙のせいであることにも今気づいた
でも、歩みを止められない
止めたいのに
家がある住宅街に入ってきた
この辺は学校のある大都市とは違い、静かで自分の歩く音がコツコツと聞こえる
動悸が激しくて、今にも口で息をしたいところなのだが、自分の呼吸の音を聞いてしまったらたぶんさらに呼吸が早くなって倒れこんでしまうかもしれない
まあ、それでもいいか
そっちの方が楽かもしれないし
そんなことができる勇気もなく、家についてしまった
家の前で、ひとつ大きな深呼吸をし、まるで今から圧迫面接を受けるかのようにびしっとして
ただいま
と言って家の中に入った
おかえりなさい
と声だけで笑顔を浮かべているとわかる透き通った音声が聞こえてきた
ここからは戦場だ
何か一つでもお母様にとって間違った行動をとれば何をされるかわからない
大体のトリガーとなる行動は知っているものの、まだ未知の部分があるかもしれないという感情が僕の行動を制限した
弁当箱を丁寧に開けて、中に敷いてあるラップを一つ一つはがす
はがしたラップは両手でしっかり捨てる
これも片手で捨てた際には、怒鳴られ暴行される
一つ一つの行動を起こすたびに、自分が犯した間違いとお仕置きが呼び起され、体が震える
嗚咽にも近い唾液をぐっと飲みこんですぐさま次の行動に移る
二階の自分の部屋にすぐさま向かい、勉強する
最低でも二時間、長くて四時間はこの姿勢で勉強しなくてはならない
僕の部屋には監視カメラがあり、お母様はそれを家事をしながら見続けている
僕が少しでも勉強に集中していなかったら、部屋のドアをバンっと開けて入ってくる
あの怒った顔
一番思い出したくない
いや、一番思い出してはいけない顔
あなたは受験戦争に勝つのよ
そのためだったら私は何でもするわ
これがお母様の口癖であった
まさしく戦争であった
家の中は僕の敵に張り巡らされた罠だらけ
それに一歩でも踏み込めば勝機と見込んで敵は一網打尽に僕をいたぶってくる
僕は毎日のように敵の独房に入れられ、監視が付く
ここでも間違えれば一発アウト
入るのは簡単だけれど、逃げることは到底許されることのない返しの付いた最強の城
僕は毎日そこに出ては入っていく無残で哀れな歩兵
戦争については学校で習った
教科書では偉人ばかりに触れ、歩兵については誰も触れられず、賞賛されず、励まされなかった
僕を賞賛してくれる人は誰もいない