なんの波乱もない家庭7
👇登場人物紹介👇
咲(さき)…カズヤの嫁
カズヤ…咲の旦那
カナト…2人の息子
お義母さん…カズヤの実母で咲の義母
お義父さん…カズヤの実父で咲の義父
お母さん…咲の実母
🐓🐓🐓🐓🐓🐓🐓🐓🐓🐓🐓🐓
咲たちは昼ご飯を終え、ソファでテレビを観ていた。カナトは、ウトウトしていたかと思えば、咲の膝枕で寝てしまった。
テレビではドラマがやっており、初対面の中年の男女が焼き鳥屋で酒を飲み、お互いのことについてポツリポツリと話していた。
いいなー焼き鳥デートかー
咲はぼんやり考えていた。カズヤさんとは結局1度もお酒を飲むことなく結婚してしまった。
それまでに大量の薬物が体内に蓄積していた関係で、私の内臓の数値が本当に危険な値に達していたからだ。
本当は、しっぽり日本酒飲みながら温泉お泊まりデートとかしたかったなあ。
そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴った。
宅急便かな?
「はーい」
画面を見ると、郵便局員らしき人が写っていた。
「お届け物でーす」
「今あけまーす」
ガチャ。
ドアを開けると、そこには目の大きな色黒の男の人が立っていた。
どうしよ、ちょっとタイプやな。
若干ドキドキしながら荷物を受け取る。郵便局員さんはキビキビとした様子であっという間に去っていった。
(いかんなあ。我ながら浮気性というかなんというか…)
精神科医の内海聡先生の言葉を思い出す。
「伴侶を尊敬し、性的に不貞行為をしないこと」
肝に銘じている。というか、今まで1度も浮気などしたことがない。心変わりは何度もあったが、それはもはや別れを意味していたので浮気ではなかったはずだ(と言い聞かせている)
そふぁに戻るとカナトが起きていた。
うけとった箱をじーっと見つめている。
「ママ、それなあに?」
「なんやろね?」
送り主は、なんとカズヤさんだった。
「パパからだ!!!!!」
なんで?自宅に荷物を送るの???
咲は混乱した。開けてみると、中身は炭酸水とノンアルコールカクテルの素だった。
添えられた手紙にはこう書かれていた。
「いつもありがとう。たまには楽しんで。」
カズヤさんなりの気遣いだとわかった時、目から涙が出てきた。私がお酒好きなのに飲めないのわかってて、このチョイスなんだ…
普段は好きだとか全く言わない人だけど、たまにちゃんとポイントを突いてくる。
みてないようで見てくれてるんだな。
じわじわと愛されてる実感が湧いてきて、カナトの前で泣き続けてしまった。
「ママー!このカラフルなのなあに???」
「ジュースだよ!カナト、飲もっか!」
「飲むー!!!!」
よし、こうなったら息子とデートや。カズヤさんとしたかったこと、カナトとするべ。
咲は昔の自分を思い出した。市役所職員時代、毎週のように金曜日の夜は飲み歩いていた。懐かしいなあ、あの頃はまだ内臓も丈夫やったなあ~。
カナトのお気に入りの恐竜のグラスに、炭酸水とノンアルコールカクテルの素を注ぐ。
カラフルな黄色が目に明るい。
「カナトー乾杯しよ!」
「うん!かんぱーい!!」
「いえーーーい、飲むぞー!!!」
「ママ、おつまみはー?」
そうや、飲むにはおつまみや!なんかあったかな?
そう思い箱の中をちらっと見ると、さすがカズヤさん、ちゃんとおつまみも用意してくれていた。
入っていたのは、天然素材と書かれた鹿肉のジャーキーだった。
「カナト、鹿肉食べよっか🦌」
「鹿さん食べちゃうのー?」
「うん、パパが買ってくれたんやよ」
「でもパパは鹿さん絶対食べないじゃん」
「うん、パパはね」
「じゃあ僕も食べなーい!」
「あ、そ。ならママだけもらうねー。んまっ!!!!」
「そんなに美味しいの?」
「カナトにはあげなーい!」
「やだー!!!食べるー!!!」
そんなやり取りをしながら、ちらっと時計を見た。時刻は3時を回っていた。
おやつの時間に息子と飲み会、か。
これはこれでありなのかもしれないな。
心の中でカズヤさんに感謝しながら、鹿のジャーキーを噛み締め、黄色いノンアルコールカクテルの炭酸割りをゴクッと飲み込んだ。
あんたの愛にほろ酔いやわあ、、、なんてね。
帰ってきたらハグしてあげよ。
身体の内側からじわじわとしたものが湧き上がるのを感じた。
この前の夜、ちゃんと着床したかな?
カズヤさんとの2人目の子を、また命を懸けて必ず産もう、と咲は決意した。
そんな事を考えているうちに、カナトはいつの間にか自分でノンアルコールカクテルを作り、全部飲み干していた。
欲張りなとこも私にそっくりやな。
咲は苦笑いして、夕飯のメニューを考え始めた。
つづく