雨の音
「あたし雨の音が好きなんだ」
そう言う彼女に対して、口々に周りが同調する。
「雨音って落ち着くもんね」
「雨の音って神秘的だもんね」
「雨は空の涙だからエモいよね」
彼らに悪気はない。
むしろ気まぐれな彼女を理解しようと精一杯寄り添っているのだが、当の彼女はそんなのお構いなしに小さくため息をつく。
いや、お構いなしじゃない。
むしろ、ありがたい。
こんなあたしのこと、なんで好きなんだろ。
あたしはきらい。
そしてもう一度、
今度は彼らに聞こえないように心の中でつぶやく。
雨の音は好き。
あたしの気配を消してくれるから。