note連載小説『むかしむかしの宇宙人』第37話
突如、バシャリが閃いたように顔を輝かせた。
「星野! もしかしてラングシャックが見つかりましたか!?」
「ああ、あれか」
と、星野さんが手を叩いた。
そのもったいぶったしぐさに、バシャリが目を大きく見開くと、星野さんはにやりとわらった。
「すっかり忘れてたよ」
バシャリは、がくっとくずれ落ちた。
「星野……頼みますよ」
「わかったよ。ちゃんと探しとくから」
星野さんは、面白そうにバシャリの肩を叩いた。二人のやりとりにわたしはついふきだしてしまった。おかげで気持ちがほんの少しほぐれた。
星野さんのお土産をおかずに夕食となった。竹の皮を開けると、揚げたてのコロッケが姿を見せる。
「星野は恵まれぬ者に食物を与える聖者ですよ」
おおげさな感謝の言葉を述べながら、バシャリはコロッケにかぶりついた。
お腹が減っているのはわたしだって同じだ、と同様に箸をのばし、口に入れる。カリッと衣の歯ごたえがし、ジャガイモがほくほくと口の中で音をたてる。
絶品のコロッケだった。
「おいしいわ」
「評判の店だからな。さあ、若者はたっぷり食べないと」
と、星野さんは満足そうにすすめてくれる。あっという間にコロッケがお皿から消えた。
バシャリは、おひつのご飯まですべて平らげた。わたしもお腹いっぱいだ。
食休みをかねて、縁側で涼むことにした。わたしが蚊とり線香をたいていると、バシャリがおぼんを手にやって来た。
スイカが切りわけられている。星野さんが持って来てくれたスイカだ。
三人で縁側に腰かけ、スイカを一口かじると爽快な風味が口の中いっぱいに広がった。自然の恵みをたっぷり含んだ甘さだ。
コロッケといい、このスイカといい、大企業の御曹司はお土産まで一級品だ。
そんな感想を抱きながらスイカを堪能していると、突然星野さんがスイカの種をぷっと庭に吐き出した。
種が、放物線を描いて庭にぽとんと落ちる。バシャリが関心を示した。
「星野、その行動には何らかの意味があるのでしょうか?」
星野さんはにやりとわらった。
「地球人がスイカを食べるときの儀式だ。こうして庭に種を吐くことで、スイカへの感謝の念を大地にささげるんだ」
「ほう、儀式ですか」
バシャリはそのでたらめを真に受けたようだ。
「不思議な風習ですが、それぞれの星の文化をまねることは宇宙の平和にもつながります。私もやってみましょう」
バシャリも真似をしてぷっと種を吐き捨てる。星野さんはさらに勢いよく吐き出し、バシャリの距離を上回った。
「ほらっ、僕の勝ちだ。宇宙人といってもたいしたことはないな」
「ぐっ」
バシャリは悔しそうに顔をゆがませた。
「アナパシタリ星人を代表し、星野に負けるわけにはいきません」
二人で飛距離を競いはじめる。その下品なふるまいに、わたしは抗議した。
「まあ、汚いわ。いい加減にやめてちょうだい」
「幸子ちゃんに言われちゃあしかたない。一時休戦にするか」
星野さんは口元の汁を袖でぬぐった。
「そういや訊いてなかったけど、幸子ちゃんは何の仕事してるんだい?」
「銀行で働いています」
「へえ、銀行か_」
と、星野さんは不敵な笑みを浮かべる。
「バシャリ、知ってるか。地球では美女がデパートで働いて、そうでないのが銀行で働くんだ」
バシャリが納得したように頷いた。
「そういうことですか。ようやく謎が解けました。
だから幸子はいやいやながらも銀行に勤めているのですか」
「まあ、失礼しちゃうわ」
わたしがむくれると、星野さんは高らかにわらった。
「冗談だよ。冗談。幸子ちゃんなら十分デパートガールも務まるよ。なあ、バシャリ」
「はい。幸子は見る角度とこちらの気分次第では美人ですよ」
奇妙な褒め言葉を浴びせてくる二人にすっかり怒る気も失せたところで、わたしは何気なく星野さんに尋ねた。
「星野さんのお仕事はどうなのかしら?」
「仕事かい? 順調さ。順調に借金が増えてるよ。倒産間近だろうな」
星野さんは、お手上げというしぐさをする。星野製薬の業績がこのところふるわないという話は小耳にはさんだことがあったけれど、まさかそれほど経営状況が悪いとは考えてもいなかった。
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