「冬」で自由作文の授業をしたので講師の作品例を供養しようと思う

とある専門学校の非常勤で、今年の夏から「論理学」の講義を担当している。

まあ、要は「書くこと」の力を付ける授業なのだが、あれやこれやと、学生相手にとりあえずなんでもやってやろうの精神でコンテンツを考えている。


今日は15回シリーズの14回目。

ここまではわりとかっちりとした、フォーマットにしたがった書き方をトレーニングしてきた。だからそろそろ良いかなあと、思い切って自由作文をやらせてみることにした。

学生が手を動かすのが何より大切なので、そうなると、講師の側は思った以上に手持ち無沙汰になる。というわけで、学生と一緒に、私も自由作文を書くことにした。

Googleドキュメント上で作成し、学生には閲覧用のURLをQRコードで配布したので、(見ようと思えば)私の執筆過程をリアルタイムで追いかけられる……という趣向だ。だが、多分誰も見てなかっただろう。

自由作文というか、エッセイを書くこと自体は好きなので、自分自身楽しむことができた。書き終わった瞬間にそれなりの達成感もあって、誰にも見られずに終わるのはちょっと悔しいので(笑)、書いたものを載っけてみようかなと思う。

学生と同様に、その場でネタを決めるところからとりかかった。学生に提示していたテーマが「冬」で、字数は400字以上。2クラス担当していて、それぞれの時間で1本ずつ、違う話を書いていた(ヒマか?)。

1本目:テーマ「冬の朝」

 基本的に夜型の生活をしているが、週に1回、水曜日だけは朝型人間になる。40km先、三原市の勤務先に、8時半までに出勤しなければならないからだ。
 11月を過ぎると、目覚ましのベルとともにぼんやり見える世界は、朝というよりもむしろ夜に近い。6時に起きて、6時15分にベッドを抜け出し、グズグズしながらも7時10分過ぎには家を出る。夏にはサングラスが必須だった東への通勤路も、今はヘッドライトを付けなければ前へ進むこともできない。
 地元からずいぶん西にきたのだなあ、と、明け方というにもまだ早い雰囲気の道を歩いて、近所のコンビニにコーヒーと朝食を買いに行く。こんな時間にまだ真っ暗、ということがまだ物珍しくて、冬至を越えてから少しずつ明るさを増していく空に、どこか残念さを感じさえする。
 とはいえ、朝日が遠いというのも、いいことばかりでもない。今住んでいる街は高原の盆地で、冬は平気で氷点下を下回る。「水道管の凍結に注意」という張り紙を冗談だと思っていたら、
「いや本当に起きますよ、正月にうちはやらかしました」
同じ街に住む同僚の先生が、こともなげにこんなことを言う。
 だから、車の窓ガラスくらいなら、平気で凍りまくるワケである。底冷えとともに目覚める朝は、いつも軽く面倒な気分になる。頼むぞ……と祈るように駐車場の様子を見に行くと、たいていはあっさり裏切られ、愛車が真っ白になっている。
 後ろの窓ガラスはさっさと氷が解けてくれるのだが、問題は前だ。目の前の田んぼの水分も手伝ってか、ご丁寧にしっかりと分厚く凍っている。ゴムの劣化が早まるのを承知でワイパーを回し、燃費など知ったことかと暖房のためにエンジンを空吹かしする。この「儀式」のぶんだけ、朝ごはんの時間が10分短くなっている。
 ようやく車を出すと、朝日は竹原市を過ぎたあたりで、ようやく私に追いついてくる。夏に買ったサングラスも、この辺から出番がやってくる。そして、帰りは夕陽と競いながら、また同じ道を西へと飛ばすことになるのである。

2本目:テーマ「グリューワイン」

 クリスマスマーケットというイベントがあることを知ったのは、大学1年の冬のことだった。
 部活のしょーもない打ち合わせが終わり、大学のあたりをウロウロ散歩していると、通り道の一角がやけに華やいでいる。やたらと思想めいた看板や、「服さえ着ていればエライ」という価値観がまかり通るあの街で、こんなことは滅多にない。
 そこは日仏会館といって、かつてはフランスの総領事館だった場所だ。今はフランスとの文化交流の拠点として、おフランスなイベントをちょいちょいやっている……というイメージだけがあった。こう表現する他ないくらいには、縁のない場所だったワケだ。
 こざっぱりとした庭に、ひしめくように屋台が並んでいる。といっても台湾や香港の夜店や祇園祭の出店とは違う。ハーブティーにチーズ、ワインやガレット……発泡酒とポテチで宅飲みを延々しているような人間には、あまりに刺激的だった。
 その一角、庭の奥の方に、ドイツ人がやっているテントがあった。いろいろ突っ込みどころはあるのだが、ともかくもフランス人の庭にドイツ人がいた。パステル色の軽やかなあつらえとは対象的に、キャンプ用のテントにワードアートで作ったらしいメニュー表を掲げ、髭面のゲルマンダンディが黙々とヴルスト(ソーセージの一種)を焼いている。なんとなく、これだ、と思った。
 奥さんらしき人が一緒に店に立っていて、何やら小さな鍋でクツクツ煮立てている。どうやら、「グリューワイン」という飲み物らしい。スパイスとともに温めたホットワインで、ドイツではクリスマスの定番らしい。シナモンか何かの良い匂いが、暖かそうな湯気とともにこちらに訴えかけてくる。
「グリューワインとヴルストください」
「ワインは赤と白がありますがどっちにしましょう」
「白で」
 シャンソンショーの人混みに背を向け、空いていた片隅のテラス席で頬張るヴルストの美味しいこと。そして、グリューワイン!もう一杯、今度は赤を注文しにいったのは言うまでもない。
 それ以来、冬といえばグリューワインが私の定番になった。下戸の私が、珍しくボトルのワインを買い込む季節。それが冬なのである。


お粗末さまでした。

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