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親父はいつもぼくの右を歩いていた(前編)

毎週日曜日は何も用事がなければ、午前中にフィットネスクラブでトレーニングを行なっている。

そこは自動車の往来が多い大通りに面している。
ランニングマシンは大通りが見える面にずらりと並べられている。

ランニングマシンの向こうは全面ガラスになっていて、ガラス越しに外を眺めることができる。

マシンでランニングやウォーキングを楽しむ会員の方々は、外を眺めながらトレーニングすることができる。

ぼくもそのマシンの上で、外を見ながらランニングをしていた。

外は少し曇っている、自動車はいつものように列をなしてひっきりなしに走っていた。

ふとぼくの視界に小さな子供を連れた父子が飛び込んできた。

散歩をしているのだろうか、手を繋いで大通り沿いの歩道をゆっくりと歩いていた。

その光景を見て、ぼくの頭の中に数十年前の記憶が蘇ってきた。

ぼくの父は12年ほど前に死んだ。

極々平凡な人で、叱られたことも、人生についてアドバイスをもらったことも、いっしょに遊んでもらったことも、物心がついてから小遣いももらったこともなかった。

威厳があったわけでもなく、とりわけ優しかったわけでもない、普通の人だった。

親父はぼくの心に特別なインパクトを残すことなくこの世を去っていった。

<後編へ続く>


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鈴々堂/rinrin_dou@昭真
小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。