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メガネをなくした大人は子供以下

あの事件は、会社に入って二年目のことだった。

ぼくはまだ20代。

海沿いの橋梁の建設現場で、現場監督の仕事をしていた。

ぼくはまだ若かったので、先輩の下について仕事を教えてもらいながら、下請さんに混じって作業をやっていた。

季節は夏から秋になる頃。

ぼくたちはコンクリートを打設して、その日は宿舎で一杯飲む予定にしていた。

コンクリートを打設した後は、養生シートをまだ固まらないコンクリートの表面に敷いておく。

養生シートは幅1mほどで、長さは10mほど。

それを何列も並べるように敷いておく。

当然だが風で飛ばされないように、重い物で押さえておく。

夜になってぼくらが宿舎にいると、別の近くの現場に勤務する先輩から、その日は台風が直撃するけど、現場は大丈夫かと電話が入った。

ぼくらは急遽現場に戻ると、現場の中で養生シートが強風に煽られて、天から龍が舞い降りてきたかように暴れ回っていた。

先輩とぼくは突風の中、養生シートたちをとっ捕まえては、倉庫にしまっていた。

ぼくは無我夢中で作業をしていると、背後からとてつもない突風が襲ってきた。

養生シートを抱えていたぼくは、突っ立ったまま風に抗った。

なんとか堪えたが、メガネが宙に舞い上がっていった。

そのままメガネは海中へダイブ。

極度の近眼のぼくは、その瞬間から赤ん坊と同じになってしまった。

一人で何もできない。

車を運転するどころか、歩行すらままならない。

先輩には車で宿舎から現場まで送り迎えしてもらい、現場ではひたすら書類整理だ。

新しいメガネが出来上がって、やっと一人で行動することができるようになったが、先輩に多大な迷惑をかけてしまった。

近眼の方はメガネをなくさないようにご注意を。


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鈴々堂/rinrin_dou@昭真
小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。