バカなおじさん二人の青春物語(後編)
最初はもごもごとしていたおじさんだが、仕事でストレスが溜まっていることや息子さんとの関係がうまくいっていないことを話し出した。
ぼくはふんふんと聞いていたが、一つ気になったことがあった。
次の日、おじさんは会社の付き合いでゴルフに行くらしい。
「辛いことあるかもしれないが、平日にゴルフに行ける結構な身分じゃないか。恵まれたサラリーマンだと思わないのかい」
「はい、そう思います、先輩」
えっ、急に先輩と呼ばれてしまった。
「君はぼくが白髪頭で年配に見えたから、こいつなら勝てると思って喧嘩を売ってきたのかい」
「はい、そうです、先輩」
そこはちゃんと認めるんだなぁ。
「息子さんとうまく行かないのは、君が厳しくし過ぎたんだ。叱られてばかりじゃ君だって嫌になるだろ、明日から接し方を見直しなさい」
「えー、まぁ、そうします、先輩」
ここは父親のプライドがあるのか、ぼくの言うことが不服そうだったが素直な認めた。
そんなこんなで、喧嘩をふっかけられたおじさんに、なんとぼくが説教をするという前代未聞の事件になってしまった。
おじさんはなおもこう言った。
「今日は先輩みたいな懐の深い人に会えてよかったです。ぼくも先輩みたいな人になりたいです」
ぼくはこう答えた。
「おー、頑張れよっ」
バカなおじさんの青春物語だな。
やがて電車が最寄り駅に着くと、ぼくは電車を降りた。
そのおじさんの最寄駅はまだ先なのに、なんとホームまで出てきて、
「センパーイ、アリガトウー!」
と大声で叫んでいる。
ぼくは振り向きもせず、背中越しに手を上げてホームから去っていった。
思い返しただけで恥ずかしいくらいバカ丸出しの夜だった。
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