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【ショートエッセイ】あの5月の空を忘れない

今日も5月晴れの快晴だ。
空に雲ひとつない。
青一色だ。

暑過ぎないけど、適度に暑い。
Tシャツ一枚で過ごせる。
真夏と違ってジメジメしていないから、汗ばむこともない。
ずっと5月だったらいいのになぁ、と思う。

庭の草が一斉に生え出し、窓から見える木々が緑色に変わる。
人にも生きる活力を分け与えてくれているようだ。

家の窓から見える空の青と山を覆う木々の緑。
贅沢なコントラストだ。


高校を卒業して大学受験に失敗したぼくは、浪人をしながらアルバイトをしていた。
工場で作られたパンとケーキを、配送先別に仕分けする仕事だ。

傷心のまま毎日工場に通い、日中は仕事、夜は勉強していた。
体も心も重くて仕方がなかった。

"何やってんだろう"
毎日、そう思っていた。

必死で勉強したのに、第一志望どころか滑り止めの試験にも落ちた。
予備校に行くお金がなくて、一年後の受験料と入学金を稼ぐためにアルバイト。

こんなことしてる場合じゃないのに、ぼくはなぜここでこんなことをしているのだろう。
焦燥の暗雲がぼくの心を席巻する。
なす術もなく、パンが詰められたケースを両手で抱えたまま、ぼくは空を見上げた。

ぼくの目に雲ひとつない青一色の空が飛び込んできた。
どこまでも澄み渡るような青空だった。
ぼくは大きく深呼吸をした。
ぼくの沈んだ心に陽がさした気がした。

あれから30年が経った。
あれは時間にして数秒のことだった。
でも今もこの季節に空を見上げると、あの時の記憶が蘇る。



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