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壊れたメガネと紫色のスニーカー

高校ニ年生の秋の頃だった。

朝、学校に行って授業が始まる前に、カバンの中からメガネケースを取り出してみると、メガネの片方のレンズが割れていた。

"困ったなあー"

メガネがないと黒板の字が見えないなぁ、ってそんなノリだった。

たいへんなことになったなんて自覚もなく、まぁなんとかなるだろう、ってそんな感じだ。

ただし親にレンズを新調してもらうには迷惑をかけることになるから、それだけは気が引けた。



学校の校庭で見知らぬ生徒が履いていたスニーカーを見た。

ぼくの目が釘付けになり、電流がぼくの体の中を駆け巡った。

めちゃめちゃかっこいい。

紫地に赤いライン。

ラインは3本あったから、今から思えばadidasだっのだろうか。

あのスニーカーをぼくも履いてみたい。

でも親に買ってもらうと迷惑がかかるから言わないことにした。



アルバイトもしていない高校生のぼくには収入がない。

両親には無理して高校に行かせてもらっていたから、お小遣いも貰わないようにしていた。

メガネレンズの新調とかっこいいスニーカー。

何かいい作戦はないものか?


そんなぼくにも一年に一回だけの収入源がある。

お年玉だ。

お正月まであと2ヶ月。

それまで我慢、我慢。

しかし、メガネのレンズがなければ、2ヶ月の間、片目で授業を受けるわけにはいかない。

ぼくは割れたレンズの破片をかき集めて、セロテープで張り合われた。

幸いレンズは粉々になっていなかったから、セロテープの隙間から何とか黒板が見える。

張りぼてのメガネレンズ、これは名案だ。

やがて待ちに待ったお年玉。

正月が明けて、ぼくは眼鏡屋さんと靴屋さんに走って行った。

やっと黒板をまともに見ることができる。

我ながらよく我慢した。

でも良いこともあった。

変なメガネを掛けてるぼくの顔を、クラスの友達にずっと笑ってもらえた。

冬休みが終わって学校に行ったら、メガネが元通りになっていたから、友達にがっかりされた。

スニーカーはと言うと、毎日の通学が劇的に楽しくなった。

何か自分自身がかっこよくなったように錯覚してしまう。

でも毎日履いていたら、すぐに破けてしまった。


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鈴々堂/rinrin_dou@昭真
小説を読んでいただきありがとうございます。鈴々堂プロジェクトに興味を持ってサポートいただけましたらうれしいです。夫婦で夢をかなえる一歩にしたいです。よろしくお願いします。