【短編】あの日の晩御飯
私は今、暗闇の中にいる。この暗闇から抜け出す方法は一つだけ、“答えを出す”ことだ。けれども私は答えを出せないでいる。
何故なら、答えを出すのが一度きりだからだ。その答えもとても重要なもの、自分の答え一つで私の大切な人の命が決まるからだ。
この暗闇の空間を作り出した人から出題された問題がある。その問題に正解しなければ、その大切な人の命が失われる。正解すればその命が救われる。
出題はこうだった……初めて我が家に飼い猫がやってきたその日に食べた晩御飯のメニューだ。正直覚えていない。飼い猫がやってきた祝いとして、何か豪勢なものを食べたわけでもない。凄く些細なこと。
私が正解を出さなければ、その大切な人の命は失われない。だから、私は暗闇の中ずっと孤独に生きている。そもそも、私の今の状況は生きていると言っていいのか、私は現実で生きているのか、死んでいるのかわからない。
私が初めて我が家に飼い猫がやってきたその日に食べた晩御飯のメニューを答えられる確率は何パーセントだろうか? 海の中に指輪を落として、その指輪を見つけ出す確率に近い。
私が答えを出さなければその人の命が救われもしないし、失われもしない。けれども、私はずっとこの暗い空間にいる。出られないでいる。
あの日の晩御飯のメニューは何だったかな。私がそのメニューを思い出す確率と、思い出す前に精神が崩壊して、なんでもいいから答えを出す確率なら、後者の方が高い。
適当に出した答えが正解だった確率は何パーセントだろうか、私は答えを未だに出せないままでいる。