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時は満ちた、髪の重み

美容院に行こうと思う。
もうこの髪の重ったらしさとまとまらなさ、許すまじ。
相変わらず頻繁に外出はできてないが、何かしらの予定はあって、調子をじりじり上げて人と過ごす時間を増やしていく計画なのだ。
そうなると身だしなみも整えた方がいい。そうしないと、あれっこの見た目、この髪変だし…、こぉの服ぅ気に入らん、とか延々と内側に迷い込んでいってしまう。
見るべきものは外のきらきら。
そこに集中できるように、この髪の束をなんとかせねば。時は満ちたと言ったが、そんなものはとっくに満ちてる。
バツっとした重みを残したボブはそのまま伸び、どすんと毛先まで落ちるようなミディアムロングになった。ロングは無理。ほんとむり。
ひとまとめにすると綱かよ、という太さになるし、使っている薄い髪留めはちょと…そんな弾性はないですと訴えてくる。

満ちている時を放っておいたの理由は2つ。ひとつはなりたい髪型が何も浮かばないこと。もうひとつは新しい美容院行こうかなと考えていたこと。あ、1番大きい理由は”ひきこもっていたい”からなんだけど、それは私の世界では一般常識なのでスルー。
新しい美容院となると出てくる例の、私ひきこもりで精神障害なんだがどうしよう問題。ディスるワードの塊である私なんて蔑まれるんじゃないか、嫌な生き物と遭遇したと思われるんじゃないかとかいまだに考える。
過去には健全社会人のふりをしたこともあるけどばかばかしいのでもうやらない。最近通っている美容師さんにはひきこもり事情をぶちまけてある。上辺を整える必要がなく楽だ。ぶっちゃけてみたら、仕事や家族というNGワードって自分の一部分に過ぎず、会話においてはどうでもいいことだったわと感じた。

とはいえ新しい場所に行くなら、まず定型文の質問が来るから、そこをあやふやにする期待は持たない方がいい。
「お仕事はどんなことされてるんですか?」
「仕事はしていなくて丸まっています。」
「お休みの日は何されてるんですか?」
「毎日お休みなので丸まっています。」
「いつも丸まっていらっしゃるようだけど、今日は伸びてますよね?」
「そうですね、本気出しました。」
こんな感じで行こうと思っている。

でも、話せることはある。
最近やっとまとまった文が頭に入るようになって本や文章を読むのが楽しくなったこと、頭に浮かぶ考えを言葉にして残すのが結構いい効果を出しているらしいこと、庭の木の切り株が何日もかけてやっと抜けたこと。
美容師さんがこんな最近のちょっとした嬉しさに興味を持ってくれて、自分と同じ世界に入れてくれる人だといいなと思う。

美容院に行くを無事完遂できたら何かしら日記を書きたい。
その日記がアップされるまでは私は家で満ち溢れたときを感じながら丸まっている。

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