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‘すぺしゃる’の向こう側 (12) まほうの家

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

12)まほうの家
りゅうと、ぼくは、ずっと、空を飛んだ。一日、空を飛んで、空が赤くなってきたら、茂みを見つけて、地面に降りて、大玉乗りのおじさんにもらったものを食べて、水筒の水を飲んで、二人でくっついて、寝た。それが、三日間、続いた。次に、行きたいところなど、思いつかなかった。空から下に見える森も、山も、町もあったけれど、あんまりわくわくを感じるところは、なかった。

四日目の昼ごろ、空が曇ってきた。それまでの三日間は、とても晴れていて、風も心地よかった。でも、四日目の空は、とても暗くて、風は、冷たくて、ぼくは、りゅうにぴったりくっついていたけれど、飛んでいて、とても寒かった。そのうちに、雨が、ぽつぽつ、ぼくの顔にあたった。遠くで、ゴロゴロと、雷の音もしていた。

そのとき、すこし遠くに、とても高い塔が、見えた。森の中に、ぽつんと、一軒だけ。オレンジ色のへんてこな形の塔だった。ぼくは、顔と頭に、ぽつぽつあたる冷たい雨が嫌で、考えることなく、りゅうに、「あの塔まで行こう!」と声をかけていた。りゅうも、雨が嫌だったのか、嬉しそうに、「きゅるう」と鳴いて、もうスピードで、塔に向かって飛び始めた。

塔まで来たら、塔の上のほうの窓が開いていて、人が見えたので、窓の近くまで行って、その人に、声をかけてみた。
「あのー、雨が降っているんで、雨やどりさせてもらっても、いいですか?」
その人は、細い優しそうな目でにっこりと笑って、
「いいですよ。」
と、ていねいに、言ってくれた。塔の窓は小さくて、りゅうが入れなくて、困っていたら、その人は、
「大丈夫ですよ。」
と言って、窓の下についた金具を動かして、窓の下の壁を左右に動かして、大きなドアにして、りゅうを入れてくれた。
「この壁、どうなってるんだ?」
不思議だったけれど、雨も強くなってきたので、とりあえず、家の中に、入れてもらった。

その人に、タオルを貸してもらって、温かいココアを入れてもらって、暖炉の前で、あったまって、落ち着いてみたら…。その人は、とってもふっくらしていて、髪の毛は、高校野球の選手のように、とても短くて、お医者さんのような白いコートを着ていた。寒いのに、足は、はだしにサンダルだった。ぽたぽたと歩く様子は、ちょっと、ペンギンに似ていて、子どものぼくが言うのも変だけど、とてもかわいかった。にこにことした顔も優しいし、なにより、話し方がとても静かで、ていねいで、優しかった。だから、ぼくは、つい、おうちで思ったこと、きらきらをさがして旅をしていること、サーカスのこと、いろいろ、思いつくかぎりの話を、その人に話した。その人は、「うん。うん。」と、ずっと、にこにこしながら、聞いてくれていた。ぼくは、ココアを飲んで、暖炉であったまって、お話をして、ほっこり温かくなった。

ぼくは、それから、部屋の中を、見まわした。そこには、細長いガラス管が何本も立っていて、もう少し大きいガラスの入れ物もたくさんあって、小さいガスバーナーもあるし、いろいろな液体が入った入れ物が、たくさんあった。
「おじさんは、なにをしている人なの?」
ぼくは、聞いた。おじさんは、
「ぼくは、化学者なんです。いろいろ混ぜるとね、わあって物が変わるんですよ。楽しいですよ。」
とにっこりした。
「きみも、やってみますか。」

おじさんは、向こう側の冷蔵庫の中から、氷をたくさん出してきて、大きななべに入れた。たくさん、たくさん入れた。そして、白い粉が入った大きな袋を出してきた。
「なめてみてください。」
おじさんが言うので、ぼくは、おそるおそる、白い粉をなめてみた。
「しょっぱい。塩?」
おじさんは、にこにこうなずいて、
「塩を氷のボールに入れてみてください。」
ぼくは、おじさんから、袋を受け取って、塩をちょっとボールに入れてみた。
「もっと、もっと。」
おじさんに言われて、もうちょっと入れた。
「もっともっと。」
おじさんに言われて、ぼくは、思い切って、ざーっと、ふくろの半分ぐらい入れてしまった。
「そうそう、そんなかんじです。」
おじさんは、ボールの中を、大きなスプーンで、かき混ぜながら、言った。そして、おじさんは、
「こんどは、これを入れてください。」
と、ぼくに、透明な液体の入ったグラスを、ぼくにわたした。
「一口、飲んで。」
ぼくは、おそるおそる飲んだら…水だった。
「全部、入れてください。」
おじさんの言うまま、水を全部、入れた。おじさんは、ボールの中をぐるぐるかきまぜて、言った。
「なめてみますか。」
「しょっぱい!」
あたりまえだけど、たくさんのしおと、氷と、水。すっごくしょっぱかった。

氷がちょっと溶けてきたら、おじさんが、ぼくにいたずらっぽく言った。
「きれいなのと、おいしいの、どっちがいいですか?」
ぼくは、ココアで、けっこうおなかがいっぱいだったから、
「きれいなの。」
と答えた。

そうすると、おじさんは、銀色のお皿をもってきて、ボールの氷の上にのせて、水を入れた。それから、おじさんとぼくは、ボールをそのままにして、いすに座って、ちょっとの間、どんな色が好きかとか、どんなフルーツが好きかとか、いろいろな話をした。それから、おじさんは、
「もうそろそろいいですね。」
と言って立って、そうっと、テーブルに近づいて、
「そうっと来てください。」
と言われたので、ぼくも、そうっと、一歩一歩、息を止めて、慎重に、静かに歩いた。おじさんが、小さい小さい氷のかけらを、ぼくに、そっと手渡して、
「おさらの水に、この氷、落としてみてください。」
と静かに言った。ぼくは、もらった氷を、ぽんと、水の上に落とした。すると、水が、落とした氷のところから、どんどんきれいなきれいな、お花のはなびらみたいな氷の模様が、ピキピキ、ツンツン、まるく大きく広がっていった。
「わあ。」
ぼくは、びっくりした。
「過冷却っていうんですよ。水を静かに冷やしていくとね、1つ、何か、とんと、ショックをあたえるだけで、一気に、氷になるんですよ。」
ぼくは、すごいと、心が、わくわくした。

つづく…

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