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‘すぺしゃる’の向こう側 (20) 正しいか、正しくないか、楽しいか、楽しくないか

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

20)正しいか、正しくないか、楽しいか、楽しくないか
お兄さんのマジックは、算数マジックって言って、足し算や引き算、かけ算やわり算ができると、わかるマジックだそうだ。ぼくは、お兄さんに、どうして、そうなるのか教えてもらうけれど、ぼくは、まだ、小さいから、大きい数の引き算もできないし、かけ算もわり算も学校でまだ習っていなかったから、さっぱりわからなかった。でも、とりあえず、どうやったら、答えがでるかだけわかったから、マジックをするには、それで、十分だった。わからないのは、いやだなあと思ったけれど、高い塔の実験のおじさんの言ったことを思い出して、
「ぼくは、まだ小さいから、今は、まだわからないけど、大きくなったら、わかるから、大丈夫。あせらなくて、大丈夫。」
と、自分で、自分に言った。

お兄さんとぼくは、いろいろな町に行って、マジックをやった。お兄さんとぼくと、二人一組でするマジックもあったし、お兄さんが一人でするマジックもあった。ぼくは、お兄さんと、マジックが成功すると、
「ファンタ―スティック マージックーーー!」
と、大きい声で、叫んだ。お客さんは、みんな、きらきらした目で、ぼくたちを見てくれた。

今日は、お兄さんと、ちょっと遠い町の工場で、マジックをした。みんな、ぼくたちのマジックを見て、拍手かっさい。きらきらした目で見てくれた。そこへ、
「何をしているんだ!仕事をしろ!」
と、こわいおじさんが、入ってきた。
「工場長だ!」
「早く仕事にもどらなきゃ!」
ぼくたちのマジックを見ていた人は、急いで、工場の中に入っていった。
「仕事をせずに、楽しみおって!けしからん!」
工場長は、みんなにどなっていた。
「まったく、近ごろのもんは、何が正しいのか、正しくないのか、わからんやつばかりだ!おまえたちも、早く働け!」
工場長は、お兄さんとぼくの首の後ろのえりをつかんで、ぐいぐい、工場の中に連れて行った。

お兄さんは、ベルトコンベヤーで流れてくる円い入れ物のねじを、どんどん、どんどん、閉めなくちゃいけなくて、ぼくは、つぎの列のベルトコンベヤーで、丸い入れ物のふたを付けなくちゃいけない。べつに難しくないし、嫌じゃないけど、楽しくはない。

「どうして、働かないと、いけないの?」
隣のおじさんに、聞いてみた。おじさんも、ぼくと同じように、入れ物にふたをつけながら、
「そりゃ、働いて、お金をもらうからさ。お金がないと、食べられないだろう。」
と言った。
「でも、楽しくないよ。」
おじさんは、笑いながら、
「楽しくなくても、食べていかなくちゃいけないだろう。それに、せっせと働くのが、正しいんだよ。」
「でも、マジシャンのお兄さんは、楽しいマジックをして、お金をもらっているよ。ねえ、お兄さん。」

お兄さんを見ると、
「ファンタ―スティーック!」
と言って、ステッキを振って、器用に、ねじを回していた。なんか、楽しそうだ。あんまり、せっせと働いている様子じゃない。

「どうして、せっせと働くのが、正しいの?」
おじさんは、
「そりゃ、みんなが、それが、正しいって言うからだよ。」
でも、お兄さんは、そんなこと、言いそうにない。

「ねえ、お兄さん、せっせと働くの、正しいの?」
聞いてみた。お兄さんは、相変わらず、器用に、ステッキで、ねじを回しながら、
「正しいか、正しくないか、ぼくには、わからないねー。これは、まあまあ、楽しいけどね。」

がしゃん! 

工場の天井に、何かがぶつかって、工場の上に、ぽっかり、青い空が見えた。ついでに、ぼくのりゅう、きゅるるの顔が見えた。
「きゅるる!」
ぼくが叫ぶと、きゅるるが、天井から、どしりとおしりから、降りてきた。天井の穴は、きゅるるより小さくて、緑の屋根がこなごなになって、降ってきた。ぼくは、きゅるるに乗った。お兄さんを見た。お兄さんも、
「そっちのほうが、楽しそうだね~。」
と言って、一緒に、乗ってきた。工場長が、
「なんてことをするんだ!」
どなって、走ってきたけど、りゅうは、ぐんと舞い上がって、天井をもうちょっと壊して、飛んでいった。
「ファンタ―スティーーーック!」
お兄さんが、叫んだ。

残念ながら、お兄さんとのマジックは、それから、長く続かなかった。りゅうが、マジックの途中で、うきうきすると、口をあけて、火を噴いてしまうから、マジックのカードがこげてしまって、マジックが続けられなくなってしまうんだ。ルンパの町で、りゅうが一人で淋しそうだったから、ぼくは、お兄さんの家に、りゅうを置いて、マジックショーに出かける気にはなれなかった。それで、ぼくは、お兄さんに、助手をやめて旅を続けることを、告げた。

「どうして?」
「だって、カードがこげたら、お兄さん、マジック、できないでしょ。そんなの、良くないよ。」
「そう?それは、それで、楽しいのに。」
お兄さんは、不思議そうにぼくを見たけれど、ぼくは、申し訳なくて、りゅうと一緒に、飛んでいった。

つづく…

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