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‘すぺしゃる’の向こう側 (10)

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

10)つまらない
ぼくは、サーカスに来て、3か月も経ったころ、サーカスの人気者になっていた。りゅうとの玉乗りは、「かわいい」「かわいい」と拍手かっさいで、見に来た子どもも、大人も、目をきらきらさせていた。ぼくは、毎日、たくさんの人のきらきらを集めた。毎日、サーカスに来る人、来る人が、ぼくに、大きな拍手を送ってくれた。きらきらした目で、ぼくを見てくれた。

ママ、ぼく、みんなの「とくべつ」になったよ。

でも、ぼくは、こっそり、ちょっとつまらなくなってきていた。サーカスの人は、親切だった。フォンダも大好きだ。動物も、かわいかった。この町のお料理も、おいしかった。なにより、大玉乗りをしたら、みんながきらきらした目で見てくれる。ぼくがさがしているきらきらを集めていると感じていた。

でも、何かが、違う。つまらないんだ。どう言ったらいいか、わからないけれど。新しいものは、面白い。でも、慣れてきたら、もうわくわくを、感じない。サーカスの人からほめられたり、サーカスを見に来た人にきらきらした目で見てもらえるのは、心をこちょこちょ、くすぐられるような、嬉しいような、どきどきした気持ちになるのだけれど…。

何かが、違う。ぼくは、大玉乗りをしているとき、大玉乗りが楽しいかといわれると、そんなに楽しくない。せっかく、一生懸命、練習したのだから、続けたい、とも思う。でも、なんだか、つまらない。りゅうも、そうみたいだ。ときどき、青い空の向こうを、じっと、見つめているときが増えた。

ぼくは、フォンダに聞いてみた。
「フォンダは、ぶらんこをしていて、楽しい?」
フォンダは、まようことなく、答えた。
「そりゃ、楽しいさ。」
「どうして?たくさん、拍手がもらえるから?」
フォンダは、少し、考えて、
「拍手は、そりゃ、嬉しいけど、一番、好きなのは、ぶらんこに向かって、飛んでいるときかな。深呼吸して、集中して、ぶらんこに飛ぶとき、空中で、静かなんだ。目の前の、ぶらんこの棒だけが、見える。宇宙を感じるっていうか、うまく言えないけど、時も、空間も、止まるんだ。最高さ!」

「そうか。」

ぼくは、思った。
「フォンダは、ぶらんこをしていることが、好きなんだな。拍手のきらきらのために、飛んでいるんじゃないんだな。」

ぼくは、違う。ぼくは、拍手のために、大玉乗りをしている。ぼくは、その夜、サーカスから、旅立つことに、決めた。

つづく…

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