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①日常は異常の始まり
「金星ってこんな感じなのかな。」
ぽつりとラインハルトは言った。
「金星にも雨は降るのか?」
やや義務的にフィリップは問い返した。
「現実世界の金星のことは知らない。レイ・ブラッドベリの小説の話だよ。」
「刺青の男だっけか。お前がよく読んでる本のタイトル。」
「そう。その中にある長雨っていう短編が金星の話なんだ。どうも、ブラッドベリの世界では金星はずっと雨が降る星ということになってるらしい
③気の持ちようなど持ち合わせていない
ラインハルトとフィリップはアメリカ人であった。自慢の金髪は湿気にやられてぺたんこになっている。気の持ちようだなんていう気の持ち方は彼らにはない。嫌なものは嫌である。
人間側が環境に合わせて自分の精神をチューニングし、受け入れてしまおうという考えは土台として精神治療的な手法であり、しかもその手法自体にある種のパラノイアが潜んではいないだろうか。気の持ちようを変えても、雨は変わらず降るのであり、問題
⑤期待をしなけりゃ良かったのだろうか
綾人は憂鬱であった。メランコリーの妙薬は何かないのだろうか。気の持ちよう、気の持ちよう、気の持ちよう、はぁ。パラノイア的な生活をあといつまで続けるのだろう。仕事は上手くいっていない。彼女とは別れていないが仲は冷めている。全てがそんな調子で停滞していて、でも日常を送るのに不都合はない。明日は同様にやってくるのである。不可解なことだ。停滞した日常の繰り返しは不条理で異常であるからこそ、気の持ちようで何
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