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世界を救う中学校教師
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 アンディ・ウィアー 読了レビューです。
ネタバレ:一部あり 文字数:約1,200文字
・あらすじ
ペトロヴァ・ライン。
太陽が暗くなるのに反比例して明るくなる銀河の線。
それが導き出すのは、ゆるやかな地球の滅亡だった。
危機に陥った人類はプロジェクト・ヘイル・メアリーを立ち上げる。
その計画にある中学校教師が参加することになり──。
・レビュー
ネタバレなしで読もう
本作に興味がある方は、ぜひ前情報なしで読むことをオススメします。
とはいえ上下巻で600ページに及ぶ物語に手を伸ばすのは、それほど気軽にできるものではありません。
本作の主人公である中学校教師もまた、人類を救うヘイル・メアリー計画への参加に乗り気ではありませんでした。
むしろ消極的といえる彼が計画にとって重要になったのは、過去に発表した論文とペトロヴァ・ラインとの関連でした。
知識という武器
主人公は科学の教師であり、様々な知識を総動員しながら難局に立ち向かいます。
表紙から分かるように本作の舞台は宇宙であり、気になることを調べに外へ出るには、宇宙服を着たextravehicular activity、略してEVAが必要です。
決して広いとは言えない宇宙船が生活の拠点であり、そこから生身で出ることは死を意味します。
そんな状況下で頼れるものは情報そして知識であり、知っていることを活用しつつ、知らないことを新たに学びながら危機に対処していきます。
なにも彼が特別というわけではなく、諦めずに立ち向かう心の強さに加えて、未知への好奇心が地球を救うことにつながっていくのです。
太陽が暗くなると?
プロジェクト・ヘイル・メアリーは、滅亡へと向かう人類を救うための計画です。
それは地球上に住む動植物を別の惑星へと移住させる、ノアの箱舟のようなものではありません。
21世紀の1/4にも達していない2022年現在、世界の人口を考えれば宇宙から地球を見た人間は、ほんの一握りに過ぎません。
そして残念ながら地球の周囲を回る月に降り立った程度で、隣の金星や火星は観測するだけに留まっています。
本作の舞台も21世紀前半と思われ、中心となる太陽の恩恵があるからこそ地球は生存可能なのです。
命の根源とも言える太陽が暗くなれば、ゆっくりと地球は冷えていきます。氷河期のように温まる未来のない、死へのカウントダウンです。
地球を救うためならば
現在、本作とは反対に地球温暖化によって、海面上昇や暴風雨の頻発などが報告されています。
地球という1つの家に住む同居人たちはと言えば、それぞれの主張を戦わせて結束するのが難しいままです。
しかし本作の人類は地球滅亡へと向かう状況にあって、まさしく死に物狂いでヘイル・メアリー計画を押し進めるのです。
それは人類が協力すれば世界を救えるし、反対に滅ぼすことも可能なのだと理解するには十分で、なかでも核を作り出した功罪について考えずにはいられませんでした。
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