幸せは歩いてこない。だから学んで楽しよう。
『ずる賢く幸せになる』 もちぎ 読了レビューです。
ネタバレ:一部あり 文字数:約1,700文字
・あらすじ
あの人はずる賢いから同期を出し抜いて出世したんだ。
どこかネガティブな物言いに使われがちな、「ずる賢い」という言葉。
けれど著者は相手を褒める表現として使います。
その真意を知ることで、あなたもずる賢い人間になれるかもしれません。
・レビュー
本作はnoteにて活動している著者、もちぎさんによる文章が主体のエッセイです。
ただし文章とコミック半々で構成された、『あたいと他の愛』の構成と近く、味のあるイラストが随所に花を添えています。
内容としてはゲイ風俗、およびゲイバー時代に出会った人々にクローズアップして、そこから幸せになるための方法を学ぶというものです。
ゲイ風俗の時代を描いた『ゲイ風俗のもちぎさん』についても、以前にレビューしています。
先にコミックエッセイに目を通した人間からすると、絵として見せるために掘り下げられなかった内面や心情について、深く詳しく言及されています。
その中で最も印象に残るのはゲイ風俗の時代に出会った大先輩、ボネ姉という人です。次いでゲイバー時代の店長、イチガヤが続きます。
ただし同じ店で働く従業員たちについても、やり取りの浅い深いがありつつ、著者のもちぎさんに様々な気づきを与えたようです。
◇
いわゆる水商売と呼ばれるサービス業において、従業員の持つ個々の魅力が人気にも繋がっていくそうで、それは個人のスキルを求められる一般人にもあてはまるかと思います。
ゲイ風俗の時代、店のランキングナンバー1を占めていたハルカという人の話で、自分の時間を削って営業をかけ、売上を取ろうとする他の従業員について、次のように断言したそうです。
この「安いから好き」というのは、対象を食品スーパーや宅配サービスなどに変えても成立します。
そして「○○だから好き」の○○に「若さ」を当てはめることもできます。
人によっては眉をひそめるかもしれませんけれど、18歳からゲイ風俗で
働き始めたもちぎさんは、それはもう人気があったそうです。
けれどもその理由は「若いから」であって、歳を重ねると人気も落ちてしまい、若さ以外の武器を探し始めたそうです。
別の話では険悪な空気を発していた従業員が、自分の人気が若さによるものだと理解しているからこそ、その武器を失くしたときが不安で荒れていたのだと判明します。
等しく人間は若さという武器を持っていますが、残念ながらそれはいつか失われるものであって、実際に失われたときどうするかが問題なのだと、本作に登場する人々は語ります。
私自身の実感としても、何者でもなかった10代は評価されやすいように感じましたが、20、30と進むほど加点は減っていく印象です。
◇
本作を読み終えて思うのは、「ずる賢く」とは決して他者を蹴落す行為を指すのではなく、敵を作らず味方を増やし、自分を含めた全員で幸せになろうとする姿勢なのでしょう。
それは自分の持つ武器を正しく理解した上で、生きている限り避けられない競争で擦り減らないよう、自らを大切にすることにもつながります。
ただし自分を大切にし過ぎるあまり、他者を見下すようになってしまった従業員の話も語られ、バランスを取る重要さについても言及されています。
本作の中で、人が怒るのは相手に期待があるから、という部分が私にとっては新鮮でした。
たぶん研修などで聞いたような気がするものの、右から左に抜けてしまったのかもしれません。
後になって理解するのは恥ずかしい限りですが、そのまま放置するよりも人生は幸せに近づくような気がします。
私たちは人と関わらずに生きられませんから、ある意味で人対人の戦場といえる場所を生き抜く彼らから、少なからず学べるのではないでしょうか。