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「経営にいきる映画」第1回『陽はまた昇る』(2002年日本/佐々部清監督/108分)
文/前原政之
「ビデオ戦争」の舞台裏を熱く描き出す
VHS対ベータマックスの「ビデオ戦争」(家庭用ビデオ機器の統一規格競争)を描いた物語です。
1970年代後半から10年に及んだビデオ戦争は、VHSの勝利に終わりました。しかし当初は、ソニーが開発したベータが圧倒的優勢だったのです。その大逆転劇を、VHSを開発した日本ビクター(現JVCケンウッド)のビデオ事業部を舞台に描いています。
一連の経緯は、NHKの人気番組『プロジェクトX』でも、2000(平成12)年に「窓際族が世界規格を作った VHS執念の逆転劇」と題して取り上げられました。
『プロジェクトX』屈指の「神回」とされる同番組と、佐藤正明のノンフィクション『映像メディアの世紀』をベースに、ドラマ的な脚色を加えて映画化したのが『陽はまた昇る』なのです。
「日本のものづくり」は現場でこそ育つ
本作は「大企業もの」というより、「日本のものづくりの魂」を描いた映画と言えます。
というのも、主人公のビデオ事業部長・加賀谷静男(西田敏行/モデルはビクターのビデオ事業部長だった高野鎮雄)の視点から、VHS開発が地を這うような闘いとして描かれるからです。
ビデオ事業部は当時赤字続きで、加賀谷は本社からリストラを命じられます。そして、誰も辞めさせずに守り抜くための起死回生の一手として、家庭用ビデオの開発にすべてを賭けるのでした。
叩き上げの技術者だった加賀谷は、社員や下請け工場と同じ目線に立ち、エリート揃いのソニーに挑んでいきます。
加賀谷のリーダーシップ、現場重視で一人を大切にする姿勢などは、中小企業経営者にとってもよき手本となるでしょう。
なお、唯一実名で登場するのが、松下電器産業(現パナソニック)相談役・松下幸之助です。本誌読者の多くにも尊敬される「経営の神様」を、名優・仲代達矢が重厚に演じています。
監督の佐々部清は、大ヒット作『半落ち』などで知られる名匠。『陽はまた昇る』は監督デビュー作です。
2020(令和2)年に亡くなった佐々部監督を、私は一度取材したことがあり、「大衆を元気づける映画を作りたい」との言葉が印象に残っています。
『陽はまた昇る』も、タイトルのとおり「日本企業よ、輝きを取り戻せ!」と熱く訴えることで、大衆を元気づけようとした映画なのでしょう。
★ココがPOINT!
劇中、松下幸之助が言う「ベータマックスは100点満点だが、VHSは150点や」は実際の発言。VHSが消費者の望む2時間録画を実現したことを指していました。現場の声を重視したことが大逆転を呼んだのです。