ボイスドラマシナリオ『卒業』
《 登場人物 》
男 (15) 高校生
女 (15) 高校生
◯ 通学路 (夕方)
下校中、並んで歩くふたり
女 終わったー!
男 んー! すげー解放感!
女 だねー。
男 授業はまだあるけど、お互い志望校合格したし。
ひと安心だな。
女 うん。残りの時間、いっぱい思い出づくりしなくっちゃね。
あ、卒業旅行したいなぁ!
どこがいいだろ。温泉かなぁ、ランドかなぁ。
男 バイト探すところからだぞ。間に合うか?
女 そっか……そうだった……。
でもさ、みんな離ればなれになっちゃうんだよ?
共通の、おっきな思い出がほしいよ。
男 そうだな。つっても、今生の別れじゃないんだし。
大学生になってからの方が、時間もお金もあるんじゃない?
女 高校生の今しか作れない思い出もあるよ?
男 まあねぇ。
ったく、おまえはほんっと寂しがりやなー。
女 わーもーやめてよー!
せっかく綺麗にセットしてあるのにー!
男 ちょうどいいところに頭があるんだよ。
女 ばかばか! もーっ、ちゃんと直してよー! ほら!
男 分かった分かった。櫛は?
女 くし……ん!
男 ほい、背中向け。
女、髪を整えてもらいながら
女 ……本当に行っちゃうんだね、東京。
男 ああ、うん。
女 遠いね。
男 だな。
女 たくさんは会えなくなるね。
男 んー、まあ今はネットでビデオ通話とかできるしさ。
女 画面越しじゃん。
男 画面越しだけど。
女 ……東京って、可愛い女の子がたくさんいるんだって。
男 へー、そりゃ楽しみだな。
女 合コンとかで派手に乱れちゃうんだって。
男 み、乱れる?
女 そんな酒池肉林の大学生活を送ったら……
そのうち、私の存在、忘れちゃわない?
男 …………
女 君がパリピになっちゃったら、私のこと、『はあ? そういやいたなぁ、そんな田舎の芋くさい女! ウェーイ!』って鼻で笑ったりして。
男 東京のイメージ悪すぎない?
女 そしたら私……そしたら私……
男 乱れねーよ。パリピにもなんねーよ。
ずっと一緒にいたんだから、俺がそういうキャラじゃないの分かるだろ。
女 人生何でスッ転ぶか分かんないからあああ。
男 スッ転びません!
つか、おまえは? 大学デビューしないって言い切れる?
女、男の方を向いて
女 ええ?
男 怪しいサークルに勧誘されて、『キミィ、キャワウィねー! いいバイトがあるんだけど、やってみない? 大丈夫、キミならすぐ稼げるよ! とりあえずこのお酒飲んじゃおっか。大丈夫大丈夫! ジュースみたいなもんだから! ウェーイ!』とか、あったらどうする?
女 ……ウェーイは、田舎にも、いる……!?
男 いるだろ。
女 だっ、大丈夫だよ!
私もそんなキャラじゃないの分かってるでしょ!
男 分かってるよ。でもそーゆーこと。
女 ……ごめん。
男 俺のこと信じる?
女 信じる。
男 鼻かめよ。垂れてんぞ。
女 うう……
ずびーと、鼻をかむ
女 ねえ。
男 んー?
女 君にその気がなくても、女の子はほっとかないと思うよ。
男 は?
女 君、かっこいいので……
男 …………
女 そこで、今いちばんしたい思い出づくり……というか、解決法を思い付きました。
男 ……何?
女 私が……君の彼女になっちゃえばいいのではないでしょうか。
男 え。
女 え……だめ?
男 だめ……じゃないけど……いいの?
女 いいのって?
男 なかなか会えなくなるのに。
女 なかなか会えなくなるから繋がりがほしいんだよ。
そりゃ、何もなくたって信じるよ?
君はウェーイなキャラじゃないもんね?
男 じゃないよ。
女 でもほら、例えばね、会えなくて寂しくなっても、私は君の彼女なんだーって事実があれば、我慢できそうだから。
男 いや我慢しなくても、電話でも何でもしろよ。
女 うん、うん。していいの?
男 いいよ。
女 おおー。
男 まあ、彼女とか彼氏とか、今さらって気もするけど……そうだな、これを機に、だな……
女 よし、まずはこのままデートといこう!
男 はあ!? 急だな! デートって、どこへ……
女 この先のカフェ! と言いたいところだけど、受験生だった私たちにはお金がありません。
その辺を散歩、かな。……ん。
男 ん?
女 手、繋ご?
男 はは。少女漫画かよ。
女 いけないー? 付き合うのってはじめてなんだもん。
少女漫画が知識のすべてだよ、いけない?
男 いけなかないよ。ただ、俺大変だなーと思っただけー。
女、ぽこぽことパンチ
女 もーっ! 余裕! ぶっちゃって! 同い年のくせに!
男 ちょ、やめろやめろ。手、繋ぐんだろ。
女 繋ぐっ。
男 ……こいつ…………俺、東京行って大丈夫かな……
女 ねえ、恋人繋ぎがいいよ!
男 おー。
おわり