Prins Thomas/Træns1〜4を聴いて
目の前を埋め尽くす、線の波。無機質な白い空間を、黒い線が音に合わせて滑らかに跳ねる。波のように、上がり下がり。
低い音に合わせて、世界が傾く。視界が揺れる。上下に、左右に、斜めに。ルービックキューブを手に持ち、傾けながら眺められているような、そんな感覚。私が立っているこの空間の外側で、誰かがこの立方体を回している。
曲が変わる。
真っ白だった空間で、光が明滅する。スネアとバスドラムに合わせて、明るさと暗さが交互に現れる。脳に響く、ベース。
遠くから忍び寄る光の童。手が届くことはないその光は、近づいて離れて、私の周りを飛び回って、右から左へと移る。
脳を揺さぶるドラムンベースが、その光の童たちを纏って真っ暗な空間に楔を打つ。延々と続く光の明滅。
急遽現れる、ネオン。明るいときには現れず、暗いときに浮かび上がる。モノクロの逆転を脳に刻みながら、視界に広がる空間を揺蕩う。
曲が変わる。
逆さになっている私。裏返る私。脳内で走る文字列。またしても平衡感覚は無くなる。現実の私が傾く。恐ろしくなって目を開こうとするが、ぐっと堪える。私は知っている。この感覚を知っている。
複雑な音色が単調なリズムで繰り返される。打刻され続けるハイハット。唸り彷徨う機械音。またしても遠ざかり近づく電子音。頭の周りを飛び交う小宇宙。それを俯瞰する私。それを見ている私。幾重にも重なる私が生まれる。
暗闇に灯る光の波。
そして曲が変わる。
風の音。低く鳴り続けるベースを避けるように吹く風。遠くから聞こえる高い音。一瞬聞こえて、脳を包んで、そしていなくなって、仲間を連れて帰ってくる。
音数の多さに、惑わされる。繰り返されるリズムの上で跳ね回る音の光。誰しもが見えない景色。誰にも囚われない意識。今の私は裏返らない。その代わり、スネアに合わせて世界が上下する。反転はしない。上下に揺れる。光の仲間が連なって、私に沿って踊る。音に合わせて、波を使って、そして消えていく。
残されたのは単調な彼ら。クラップが遠くから聞こえる。響く音が、鳴らされる手打ちが、世界を作り直して、何度も作り直された世界を、飛び回る。
世界の創造が速さを増す。勢いを増す。厚さを増す。その中を飛び回り、突き抜けた先は、もともと居た世界。光はなくなり、バスドラムとスネアによって明滅される光だけが、私の輪郭を映し出す。