#28 恋人への不満は、その場で言うべきか 【マッチングアプリで出会ったモラハラ婚約者と別れた話】
恋人への不満は、その場で言うべきか
女友達に「恋人にモヤモヤしたのに、その場で気持ちを言えなかった。やっぱり後から言うのは良くないよね?」と相談された。私は、不満を溜め込んでいつか大爆発するくらいなら、その時々で小出しにした方がいいと思う。
でも、「その場で言うべき」「次はその場で言えるようにがんばろうね」とはあまり思わない。必ずしも、皆がみんな、気持ちをすぐに言語化できるとは限らないからだ。
理由なんて、探せばもっとあると思う。だから、友人には「その場で言えなかった私は駄目だ」なんて自分を責めるなよ、と言う。
彼に言えなかったことを後悔しているなら、「本当はその場で言うべきだとは思うけど、あの時はこれこれこういう心境だったから、何も言えなかったんだ…」と言って、伝え直せばいいよ。優しい人は分かってくれる。それでも「その場で言えよな!」とキレる男性なら、それまでの人だったってことさ。
わんこくんとの取り決め
お付き合い当初、わんこくんは「思ったことはその場で言ってね!」と言った。後から蒸し返されるのは嫌いなんだと。私は、「善処するけど、その場で言えない時もあるかも」と答えた。私と彼に、思考力の差があるのが気になっていた。
わんこくんは、一瞬で考えを固めて、びっくりするくらいの速さで一気にしゃべる人だ。一切迷わないし、噛まない。次から次へと言葉が出てくる。頭の中では、数分先の台本が既に出来上がっているのだろう。しかも、起承転結があって反論の余地がない。私は彼に何かを論じられると、頭がついていかず、ただただポカーンとして何も言えなくなってしまう。
それでもどかしくなったり困ったりはするけれど、私は寧ろ尊敬してしまう。すごいなー、こんなにスラスラと言葉が出てくるなんて羨ましいなぁって。
それに、彼は、常にマイペースで話してくるわけではない。普段は私の反応を見ながらゆっくり話してくれているみたい。
ただ、興奮したり、主張したいことがあると、途端にタガが外れて機関銃みたいに口が止まらなくなる。その時は、私が「ストップ!また暴走してるー!」と止める。彼は我に返り、またやらかしたと反省する。本人曰く、この周りが見えていない一方的なおしゃべりは、ADHDの特徴でもあるらしい。
一方、私は語彙力がなさすぎて言葉を探すのに時間がかかる。話しながら考えるので、途中で「いや、待てよ。こうも考えられるな」と見方が変わったりもする。だから、その場で言いたいことがまとまらず、答えが出るまで数日かかることも…。
あとは、経験不足で言葉にできなかったり、その場で言わない方がいいことだってあるよね。
そう説明したら、わんこくんは「なるほどねー。そういうこともあるよね。その時は、後から追加で説明してくれたらいいんじゃないかな」と理解してくれた。そして、そこまで物事を深く考えているリンちゃんだから好きになったんだよなー、と私の頭をポンポンした。私も、私の考えに興味を持ってくれるわんこくんが好きだよ。
というわけで、理由のある後出しはOKとなった。
ただし、私は、後から愚痴っぽい不満やただの文句を言うのは絶対に違うと思うので、それは言わずに飲み込もうと決めていた。
後からグダグダ言うのはみっともない。私がそれをされたら「その場で言えよ!!」と怒るだろう。
説明のつかない気持ち悪さ
一日かけて色々考え、昨夜、わんこくんに感じた「不安」は、どちらかと言うと「気持ち悪い」に近いと思った。あの時は、一方的な主張に気圧されて気づけなかったけど…。
そもそも、二人の将来のことなのに、私の知らないところで一人で勝手に計画を進めるなんて変だ。
お金のことも、仕事のことも、二人で「いついつまでにこれだけ貯めたいね。じゃあおれは仕事を増やそうかな。リンちゃんは支出を抑えて、毎月これだけ貯金してね!」なんて会話をするもんだと思う。
それなのに、彼は、暗い部屋でモニターの光に照らされ、一人で目をギンギンにして、「おれが頑張らないと」「おれが決めないと」「おれが、おれが」と、一人で背負って爆進していたわけだ。しかも、朝まで一睡もせずに。
ああ、その周りが見えてない感じ、容易に想像がつくよ…。いつものことだけど、独り善がりも甚だしい。
今まで目の当たりにしたことがないけど、これがわんこくんの言う過集中ってやつなんだろうか?
昨夜の不安を彼に伝えたかというと…
私は、この時のことを、わんこくんにも友人にも言わなかった。
だって、言ったところでどうなる?本人と話し合うべき問題点があるかというと、特にない。彼に何か酷いことをされたわけでもない。彼は、私との未来を楽しみにするあまり、私のために勢い余って頑張っちゃっただけなのだ。つまり、わんこくんの生態を垣間見たってだけ。それで、私が別れたいほど彼を嫌いになったかというと、そうではないし。
だから、気持ち悪いなどと感じる私の方が間違っていて、「わんこくんには、こういう一面もあるんだな」とやり過ごすのが正しいんじゃないかなと思った。
でも、嫌な気持ちになった理由は、独善的なところだけではない気がして、ずっとモヤモヤしていた。正直言うと、別れて半年以上経った今でも、その理由がよく分からない。
そこで、私のことを知り尽くした友人に「なんでだろ?」と尋ねたら、こう答えてくれたよ。
なるほどね。
私が求めてもいないことを、私のために実行するだけならともかく、その後の押し付けがましさが余計だったのか。
―― 私のメンタル崩壊まで、あと143日 ――
りん