ゴミ箱を飛び越えた先にある未来。#27
僕は文章を書くとき、それはたくさん書いては消してを繰り返す。
何度も行ったり来たりしている間に何を書きたかったのかがよく分からなくなって、やっぱり最初にたどり着いた言葉で行こうと思い、ページの上から消した文章をまた拾い上げて使う。そうすると案外悪くないじゃんということに気付き、なぜ書き直そうとしたのか疑問に思うことがよくある。
今はPCの画面上にキーボードで文字を打ち込むことで文章を綴ることができるのだけれど、これがエンピツや筆の時代であれば、僕がやっている書いては消しての作業はとんでもない量の紙を消費することになるだろう。
僕は消しゴムの使い方がたぶん下手で、学生の頃ルーズリーフに書いた文字を消そうと、用紙の中心あたりを消しゴムで擦ったとき、必死こいて授業の内容を書いたルーズリーフを一刀両断に破いてしまったことがある。
企業側もまさかこんな珍事が起こることを想定して製品を作ってはいなかっただろう。
ルーズリーフはあえなく中心から上部にかけて大きな亀裂が走り、その時間、教室にあるはずのない異様な炸裂音が響き渡った。
僕はこの痴態を近くの人に目撃されるのを恐れ、咄嗟の機転で破れた断面同士を両手でサッと合わせ、何事もなかったかのように授業を続ける。
断面には数学の計算式が崩壊を起こしており、僕の思考もまた崩壊してしまい、やっぱり数学は苦手だなあ、と支離滅裂なことを考えていた。
筆の時代に生きていたらどうだろう?
あの頃はどうやって誤字や文章の書き直しをしていたのかよく知らないけど、おそらく書き直したいことがあったときは紙ごと捨てて、新たな白い紙の上からまた始めたのではないだろうか。
そういえば僕は書道も苦手だった。そもそも文字が上手く収まらない。
先生がとめ・はね・はらいが大事だというので、小学生だった僕は先生の教えを自分なりに解釈し、グッと力を込めて"とめ"を行い、並々ならぬ思いで文字を"はらった"。しかし、とめの時点で力を入れ過ぎていたのか、筆からたっぷりと墨汁を吸った半紙は水分で脆くなってしまい、はらいのときにはボロボロに破けてしまった。
半紙の上にどんな言葉を書いていたのかまでは覚えていないけれど、その言葉が「夢」や「希望」ではないことを切に願うばかりである。
僕は文章を書くことが好きなのに、筆記用具とはとても相性が悪い。
キーボードで文字を綴ることができて、本当によかった。
文明の利器を生み出してくれた先人たちには頭が上がらない。
そのとき、僕の傍らにあるゴミ箱が白く眩い光を放ち始めた。
奇妙だ。こんなところにゴミ箱は置いていないし、丸めて山積みに投げ捨てられたルーズリーフにも身に覚えが無い。僕は今キーボードを操作して文字を綴っているのだから。光は次第に強くなっていく。
ゴミ箱の中を漁り、その中に何があるのか探った。
底の方にたどり着くと、一枚の丸められた紙が一際眩い光を放っていることが分かった。おそるおそる、僕はその紙を開く。
すると驚くことに、その紙は意志を持って人間の言葉を話し始めた。
「どうして、私のことを捨てたのよ!」紙はクシャクシャと怒っている。
「すみません……だってもっと気の利いた文章が書けると思ったので……」
僕は弱々しく答えた。
紙は少しだけ光を弱めて、今度は穏やかな調子で「バカね」と呟いた。
「あなたは、あなたの言葉を大事にすればいいの。飾り付ける必要はない」
紙は優しく語り掛けながら、次第に光を失っていき、僕の手の平の上には記事を書き始めたときに真っ先に丸めて捨てた、シワでもみくちゃになった言葉が残されていた。よくよく見ると、中々悪くない表現で綴られている。
僕は捨てられた言葉を拾い上げ、再びキーボードで画面へと打ち込む。
ありのままの感情で綴られたその文章は、きっと自分らしい未来へと繋がっている。僕はまた、文字を打つ。
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