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「かわいい」の必要性

3、4cmくらいの小さくてかわいいものが好きでついつい買ってしまう。
それはガチャガチャの指人形やクラフト市で売られているガラスや陶器の一輪挿しなど、ジャンル問わず、かわいいと思うものすべてだ。

只、一輪挿しに売り場で見たサンプルのようにちょっとした野草を飾ろうと買っても、いざ道端の小花を見ると(せっかくここで咲いているのに手折ったらかわいそうだな)と思ってしまい、結局ちいさな一輪挿しばかりが収納棚にコロコロと増えていく。


かわいいものが増えて置き場がないんだよねと会社でのランチ中に話したら、
「莉琴さんは必要ないかわいいものを買っちゃうからですよー」と、しっかり者の後輩に突っ込まれた。たしかにその通りかもしれないけれど、“必要”って、なんだろう。

ある日、好きなものの趣味が合う会社の先輩から、開けるまで中身がわからないシルバニアファミリーの赤ちゃんが一体入ったくじのようなものをもらった。
『この中の一体が入っています』というパッケージのサンプル写真を見るだけでキュンを超えて、ギュンくらい胸を掴まれる。
「かわいいーーー!!」
「早く開けてみてー!」
つぶらな目のリスの赤ちゃんが出てきた。
なんだろう…この庇護欲や母性が湧き出してしまう存在は。
わたしは幼い頃はシルバニアは通らず、アニメの途中に流れるCMで見たくらいだったから、まさかおとなになってから出会い直すとは思わなかった。

デスクへ戻り、そのままシルバニアをパソコンの横へ置いて仕事をした。請求の締切が迫り殺伐とした雰囲気の中で相当浮いている。
通りすがりの同僚から「これなんすか?」と尋ねられた。
「え?リスの赤ちゃん」と答えると、
(そういう意味で聞いたんじゃないんだけどな…)という表情を浮かべながら「かわいいっすね」と言って去って行った。

そう、ただただかわいいのだ。
リスの赤ちゃんは困っていないのに、なんだか守ってあげたくなる。その後は湧き上がる庇護欲と母性でブーストされて仕事が進んだ。クライアントが締切を超過しても、リスと目が合うとギュンで帳消しにされてどうでもよくなった。

赤い屋根のおうちに住むシルバニアにとって、ここは全然いるべき場所ではないし、まったく本来の用途ではないけれど、この時のわたしにとっては必要で力になってくれる存在だった。
だから、かわいいだけでもう十分で、必要かどうかなんて後から付いてくるものなんだと思う。むしろ、必要性なんてなくてもいい。


その後、わたしも時々シルバニアくじを買うようになった。昔は知らないけれど、今のシルバニアはカワウソの赤ちゃんが真顔でカニを頭にかぶっていたり、うさぎの赤ちゃんが全身にワカメをまとっていたりとユーモアも感じる。
赤い屋根のおうちもないし、空いたお気に入りのクッキー缶にしまって、たまに開けて眺めるくらいだけど、ただただギュンにひたるその時間が好きだし、わたしにとっては必要な時間だ。









▼これまで執筆したリレーエッセイ(一部抜粋)




▼今回はこちらのエッセイを受けて執筆しました


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