【心理学論文44】社会的地位が高いと自尊感情も高くなる?
自分自身をどの程度評価し、承認し、好んでいるか、は自尊心や自尊感情と呼ばれる。一般的には自己肯定感と呼ばれることが多いかもしれない。
自尊感情は、子ども家庭庁の「こども大綱」に関する記事でも触れたように、公官庁や地方行政の支援事業系の数値目標として掲げられることが多く、心理学における諸概念の中でも世間一般の関心が特に向けられている概念だと思う。
この自尊感情が、実は社会経済的地位(SES)と関係していることが先行研究のメタ分析からわかっている。このメタ分析では、SESの指標として、職業や収入、教育水準、あるいはこれらを統合したものが採用されている。
結果から言うと、Twenge & Campbell(2002)の研究では「SESが高いほど自尊感情も高くなりやすい」という結果が得られている。多くの人にとってこれは直観通りだろうか。ただし、この関係性はあまり強くないし、年齢や性別、文化によって大きく変わる。
例えば、年齢や性別による違い。
子どもの頃はSESと自尊感情の関係性はほとんどみられないが、大人になるとSESと自尊感情の関係性が強くなる。特に中年期はその関係性が最も強くなる時期だと考えられている。一方、高齢者になると再びその関係性が弱まる。SESの高い人は大人になるにつれて、職業的威信や学歴を他者から褒められたりして自分の努力の成果として自己認識されるようになり、影響が大きくなっていくのかもしれない。あるいは、SESの低い人が激しい他者との比較の中で、自分の価値を低く見積もっていくのかもしれない。
性別でも面白い傾向が見られる。
女性の場合、最近の世代ほどSESと自尊感情の関係性が強くなっている。一方で、男性の場合はSESと自尊感情の関係が昔ほど強くないことがわかっている。ただし、2002年の研究であることに注意が必要だ。
国や地域によっても傾向が異なる。
アジア人やアジア系アメリカ人のグループでは、SESと自尊感情の関連性が特に強い。一方、ヒスパニック系やアフリカ系の人々では、この関係性は比較的弱いことが示されている。
また、SESをどう測定するかもポイントになる。教育や職業のステータスは自尊感情との関連が強いのに対し、収入と自尊感情は比較的弱い関連しか示していない。まぁ、他人の教育水準や職業はわかるけど、収入まではわかんないもんね。
さて、公官庁で働く人々は比較的高いSESの人々が多いと推察される。
子供の頃からの成功体験の積み重ねによって得られたのが現在の自尊感情の高さなのであれば、学習支援事業や居場所支援事業系の数値目標として掲げたくなるのもわかる気がする。
言い換えると、自分自身をどの程度評価し、承認し、好んでいるかなどを繰り返して自問自答して苦しみ葛藤ばかりしているのは高いSESの人たちのほうなのではないか、ということだ。
以前の記事で紹介したように、低いSESの人たちは他者志向性が強く、そもそもあまり自己に関心が向いていないケースが多いかもしれない。自分に向き合うというゲームは、その個人のとって果たしてそんなに大事なのだろうか。
このへん、まだまだ上手な言葉が思いつかないけど……。いくつかの支援事業は、寝た子を起こしているのではないか、と最近考えている。
おしまい。